「オートマチック」の始めの一歩、RICOH AUTO 35V-コデラ的-Slow-Life-

» 2008年06月03日 08時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 そのカメラを初めて見たのは、昨年春に日本カメラ博物館で開かれた「リコー展」でのことだった。このとき考えたことはコラムにしてあるが、リコーの歴史はほかのカメラメーカーの歩みとは一線を画している。


photo 「RICOH AUTO 35V」。レバー類が全部底面にある、上下ひっくり返ったようなデザイン

 それはものすごくシンプルな技術的興味で成り立っていると言ってもいい。「どこまで安くできるんだろう」とか、「全部自動化してみよう」、「ものすごく丈夫にしてみよう」といったトライアルが、「科学技術」の名の下に実行されてきた。まさに昭和の魂である。

 カメラの自動化というトライアルで衝撃を受けたのが、「RICOH AUTO35」というカメラだった。見た目、なんにもない。ただフィルム巻き上げとシャッターがあるのみで、同年代のカメラに比べれば拍子抜けするほどツルッとしている。

 日本ではあまり売れなかったようだが、機能とデザインは、海外のカメラメーカーには多くの衝撃を与えたことは間違いない。のちに旧ソ連では、これにそっくりの「ZORKI-10」というカメラが出現した。そう、ライカのコピーモデルで知られる、あのZORKIシリーズの一員である。


photo 背面は何にもないに等しい

 そのデザインは忘れようにも、シンプルすぎて忘れられない。新宿の中古カメラ店のガラスケースに無造作に転がっていても、すぐに分かった。「RICOH AUTO 35V」は、元祖RICOH AUTO 35の後継モデルだそうである。デザイン的にはほぼ同じだが、色が多少違う。上部の金属部分は、昔懐かしい「トタン」のような感じだ。下半分はグレーではなく黒で、ソリッドな印象を寄り強くしている。

 オーバーホール済みの美品で、1万円+消費税だった。普段買うのはもっぱらジャンクばかりだが、そのときはいい出物もなかったので、たまにはちゃんと動くものも買ってみようと思ったわけだ。

何かがおかしい……


photo レンズはやや広角の40mm/F2.8のRICOH KOMINAR

 早速フィルムを詰めて、撮影に出かけた。レンズは40mm/F2.8のRICOH KOMINARというのが付いている。当時の水準からすれば、やや広角である。

 シャッタースピードや絞りは自動で調整される。フィルムの感度を合わせたら、あとやることと言えば3段階のゾーンフォーカスで距離を選ぶぐらいである。フォーカスも距離が書いてなくて、絵が描いてあるだけだ。最短距離が分からないが、当時の水準から予測すると、80センチぐらいだろう。

photophoto フォーカスは3段階。アイコンがかわいい(左) 同アイコンはファインダ内にも現われる(右)

photo フィルムの巻き上げ機構は50年代から続くRICOHの伝統

 フィルムの巻き上げは、底部のレバーを前面方向に半円を描くように回す。ホールドしたまま左手の中指、薬指でじゃかじゃか巻き上げるれば連写も可能な、優れた機構だ。以前持っていた「RICOH 35 Deluxe」は50年代に製造されたものだが、これも同じ構造で大変使いやすかったのを覚えている。

 レンズ脇に付いている大きなレバーがシャッターだ。この位置なので中指で押す以外にないが、かなりストロークが深く、手ブレの注意が必要である。

 さて、テスト撮影したフィルムが現像から戻ってきたが、なんじゃこら。露出がほとんどアンダーになっている。フィルム感度設定は間違っていないはずだが。フィルム感度のダイヤルを念入りに観察してみると、各数字のところにクリックがなく、全然関係ない位置にクリックがある。これはおかしい。


photo かなり露出がアンダー

photo 逆光に弱いだけかと思ったらそうでもないようだ

 もしかしたらオーバーホールした人が、組み上げを間違えたのではないか。この手のダイヤルやリングはだいたい3点止めになっていて、ちゃんと位置を考えて組み立てないと、120度ずれて止めてしまうことになるのだ。せっかく完動品を買ったのに、やっぱり修理する羽目になるとは、なんとも因果なことである。

小寺 信良

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映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。


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