「クライマーズ・ハイ」+D Style 最新シネマ情報

» 2008年05月29日 15時24分 公開
[本山由樹子,ITmedia]
photo (C) 2008「クライマーズ・ハイ」フィルム・パートナーズ

 1985年8月12日、群馬県・御巣鷹の尾根に日航機123便が墜落。死者数は520人にものぼり、単独機事故としては世界最大の惨事となった。

 当時、地元紙の社会部記者として事故の取材にあたった作家・横山秀夫が、この体験を基に書き上げたのが「クライマーズ・ハイ」。2003年週刊文春傑作ミステリーベストテン第1位、2004年本屋大賞2位などの圧倒的な支持を受け、大ベストセラーとなった。2005年にはNHKでドラマ化もされた同作品が、今回、「突入せよ!『あさま山荘』事件」「魍魎の匣(はこ)」の原田眞人監督の手により映画化された。出演は堤真一、堺雅人、尾野真千子、高嶋政宏、山粼努、遠藤憲一、田口トモロヲら。

 主人公は北関東新聞社の悠木記者(堤真一)。趣味のロッククライミングを翌朝に控えた悠木がデスクを去ろうとした瞬間、日航機墜落の速報が入る。騒然となる社内。ワンマン社長の独断で大事件の全権デスクに任命された悠木は、「全国紙に負けられない」と地方紙の意地を見せるが、社内でも編集局、社会部、販売局などと対立し、孤立していく。事故を時系列でたどりながら、白髪混じりの現在の悠木がロック・クライミングする姿が時おり挿入される。

 タイトルの「クライマーズ・ハイ」とは、登山時に興奮が極限まで達し、恐怖感が麻痺する状態を指す。背広で現場入りした記者とカメラマンが味わう、目を覆いたくなるような地獄絵図。1分でも早く情報を流そうとするが、当然ネットやケータイもない時代、社とのやりとりに四苦八苦する。惨状を目の当たりにしたカメラマンは極限状態に陥り、やがて精神に異常をきたしてしまう。

 地方紙と全国紙の報道合戦、覇権争いの内幕は壮絶で、活字独特の心理戦を見事に映像化した。俳優陣のハイテンションな演技に加え、臨場感とスピード感あふれる描写で、見ているこちらも緊張感が走る。145分という長丁場、かたずを飲んで見守ることになるだろう。

 ただ、当時の社会情勢などの情報が膨大な上、悠木とワンマン社長の関係など個人的なエピソードを盛り込みすぎ、散漫になっているのが残念。特に悠木の山登り仲間との友情などは本筋と共鳴しあうこともないので、カットしても良かったのではないだろうか。

 事故発生から20年以上たった今、悲劇を風化させないためにも、見てほしい作品である。

photophoto (C) 2008「クライマーズ・ハイ」フィルム・パートナーズ

クライマーズ・ハイ

監督・脚本:原田眞人/原作:横山秀夫

出演:堤真一、堺雅人、尾野真千子、高嶋政宏、山粼努、遠藤憲一、田口トモロヲ

7月5日 丸の内TOEI1ほか全国ロードショー



筆者プロフィール

本山由樹子

ビデオ業界誌の編集を経て、現在はフリーランスのエディター&ライターとして、のんべんだらりと奮闘中。アクションからラブコメ、ホラーにゲテモノまで、好き嫌いは特にナシ。映画・DVDベッタリの毎日なので、運動不足が悩みの種。と言いつつ、お酒も甘いものも止められない……。


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