第80回アカデミー賞で監督賞、作品賞、助演男優賞、脚色賞の4冠に輝いた「ノーカントリー」。「ミラーズ・クロッシング」「ファーゴ」など、大ヒットはせずとも、クオリティの高い作品を撮り続け、アメリカン・インディペンデント・シネマの底上げを図ってきたジョエル&イーサン・コーエンの最新作である。原作はコーマック・マッカーシーによる「血と暴力の国」。
テキサスに住むベトナム帰還兵のルウェリン・モス(ジョシュ・ブローリン)は、ハンティングの途中、偶然にも死体の山と大量のヘロインと200万ドルの大金を発見する。水を欲しがる1人の生存者を横目に、金をネコババ。ところが、罪悪感に駆られたモスが水を持って現場に戻ると、1台の車が現れ、発砲される。
このことがきっかけで、モスは殺し屋アントン・シガー(ハビエル・バルデム)に命を狙われ、逃走の日々がスタート。空気銃を使い、コインの裏表でたやすく人を殺す殺人鬼から、モスは逃れることができるのか。さらに、そんな2人を昔気質の初老保安官エド・トム・ベル(トミー・リー・ジョーンズ)が追跡し……。
とにかく強烈の一言! 後世に語り継がれそうな、いや語り継がれるであろう殺し屋シガーの恐いこと。人を無慈悲に殺しまくる、その殺人マシンぶりにはド肝を抜かれる。例えば、手錠をかけられたまま保安官を殺すシーン。手錠の鎖を背後から保安官の首に回し、一気に絞め殺す。その感情のなさは、まるでターミネーターのよう。一体シガーとは何者なのか? 映画の中では彼の素性が一切明かされることはない。シガーに出会うこと、つまりそれは死を意味する。演じるのはアカデミー賞助演男優賞に輝くスペイン人俳優のハビエル・バルデム。あまりの不気味さに、見ていて不快感を覚えるほどだ。
ジョシュ・ブローリン、トミー・リー・ジョーンズ、そしてもう1人の殺し屋に扮したウディ・ハレルソンなども個性的なキャラクターで、強い印象を残す。
追う者と追われる者の悪夢のようなサスペンス・アクションは、コーエン兄弟らしい、どこか乾いた、笑うに笑えないユーモアが全編を覆う。
変わりゆくアメリカ西部の風景を血の匂いとともに活写した、まさにコーエン兄弟の集大成。セリフは少なめで万人向けとは言い難いが、油断もスキもない展開で、見応え十分!
(c)2007 Paramount Vantage, A PARAMOUNT PICTURES company. All Rights Reserved.
監督・脚本:ジョエル&イーサン・コーエン/原作:コーマック・マッカーシー
出演:トミー・リー・ジョーンズ、ハビエル・バルデム、ジョシュ・ブローリン
3月15日、日比谷シャンテシネ他全国ロードショー
本山由樹子
ビデオ業界誌の編集を経て、現在はフリーランスのエディター&ライターとして、のんべんだらりと奮闘中。アクションからラブコメ、ホラーにゲテモノまで、好き嫌いは特にナシ。映画・DVDベッタリの毎日なので、運動不足が悩みの種。と言いつつ、お酒も甘いものも止められない……。
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