完成された「原点」、ZEISS IKON CONTESSA 35-コデラ的-Slow-Life-

» 2008年02月25日 10時30分 公開
[小寺信良,ITmedia]

photo 折りたたみ式35mmカメラ、ZEISS IKON CONTESSA 35

 そのカメラを友人に譲って貰ったのは、2006年初夏のことである。当時はデジタル一眼にいまひとつ乗り切れず、むしろロシアのHORIZONやLOMO、中国のSEAGULLなど変なカメラをいじくっていたのだが、おもちゃっぽいものではなく本物の古いカメラはどんな写りなのか、試してみたくなったのだ。


photo 二重像による距離計を装備

 ZEISS IKON CONTESSA 35は、第二次世界大戦終結後ドイツが東西に分断されたのちに、西ドイツのツァイスイコン社から1950年に発売された、フラッグシップモデルである。蛇腹式のカメラであるが、引き出しても外側からは蛇腹が見えず、メカニカルな印象のままなところが気に入っている。


photo セレン式の露出計も装備

 今から半世紀以上昔に作られたカメラだが、二重像の距離計を装備し、非連動ながら露出計も付いている。60年代にカメラが普及するにつれて、露出計だけで距離は目測のものばかりになっていったが、原点とも言えるこのカメラには、きちんと両方が搭載されていたというのが驚きである。


photo レンズはもちろんZeiss-Opton Tessar

 レンズはZeiss-Opton Tessarの45mm/F2.8、いまだにその実力は揺るぎない、Zeiss独自のTコーティングが施されている。ただ最短で3フィート、約1メートル弱までしかフォーカスが合わないのは、さすがに「時代」だろう。

 シャッターはCOMPUR製で、当時としては破格の高速である1/500秒を搭載している。ただ1/500秒にセットするときだけ扱いが特殊で、シャッターチャージする前に、ダイヤルをセットしなければならない。以下スピードは、1/250、1/100、1/50、1/25、1/10…と続く。普通のカメラなら、1/250の次は1/125、以下1/60、1/30…と続くところだが、なぜ1/50秒ベースなのか。


photo シャッタースピードはやや変則的

 ドイツは電源周波数が50Hzなので、蛍光灯のフリッカーを嫌ったか、あるいは測定器の関係なのかもしれない。ちなみに蛍光灯が一般に発売されたのは1937年、米国でのことである。日本では1941年に、東芝が蛍光ランプの製造を開始しているようだ。

 話が脱線した。露出計は、当時のことだから当然セレン式である。半世紀前のものだが、ちゃんとメーターが振れていた。ただ感度は落ちているようで、1段ぐらい開けてちょうどいいぐらいである。中古で出回っているCONTESSAは、露出計が死んでいるものが多い。

初めてのレストア

 レンズ上に飛び出した丸い窓は、距離を測るためのプリズムで、フォーカスリングと連動して回転する。ファインダ内には二重像があり、これを合致させてフォーカスを合わせるわけである。ファインダはとても小さく、針穴から覗いているようだ。筆者のようなメガネ者は、目と接眼部の位置がどうしても離れてしまうので、フレーム枠がちゃんと見えない。

photo 初回の撮影。狙った花よりも手前にフォーカスが来ている

 さて期待した写りは、噂ではZeiss-Opton Tessarは固い描写と聞いていたのだが、実際に撮影してみるとどこにフォーカスが合っているのかよく分からない、ぼんやりした写りであった。まあ50年以上昔のカメラだからこんなものか、と思っていたのだが、写真をよく見ると、フォーカスがきちんと合っている部分もある。

 どうも、レンジファインダの距離計とフィルム面のフォーカスが、ズレているようだ。これを調整すれば、きちんと写るのではないか。そう思って分解し、距離の調整を行なったのが、実は筆者がカメラのレストアを始めたきっかけであった。

 距離の調整は、裏蓋を開けてフィルムが当たる部分にトレーシングペーパーを貼り付け、ルーペでフォーカスを確認しながら、距離計とのズレを調整する。フォーカスリング部分を外して、ギヤのかみ合わせを変えながら、少しずつ試していくわけである。

photo フォーカスを見ながらギヤのかみ合わせを少しずつ調整していく

 しかしさすがに50年前のカメラだけあって、レンズを3点で止めている直径1ミリ程度のイモネジが、1つは紛失、1つはネジの頭が潰れ、残りの1つでかろうじて止まっている状態であった。なるほど、これでは次第にヘリコイドがずれていくのも当然である。

 最初はフォーカスを調整するノウハウなどまったく知らなかったので、近距離の実測と合わせながら調整したのだが、実際にテスト撮影してみると、無限遠になるほど微妙なズレが次第に拡大されていくことが分かった。距離の調整は、無限遠をまず合わせないといけないのだということを、実地で学習したのであった。

小寺 信良

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映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。


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