質実剛健? 実は熱っぽく感性に響くクルマ――フォルクスワーゲン(1)本田雅一のCar Style

» 2007年11月30日 12時20分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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 「フォルクスワーゲン」というブランドから、皆さんは何を想像するだろうか。筆者が子供の頃、日本で”ワーゲン”と言えばフォルクスワーゲン・タイプ1(初代ビートル)のことを指す代名詞だった。

 そして1974年に発売したゴルフによって、80年代以降はフォルクスワーゲンと言えば「ゴルフを作っている会社」として広く知られるようになり、現在に至っている。

photophoto フォルクスワーゲン・タイプ1(左)とゴルフ1(右)

 しかし少し車の知識が豊富な読者なら、19カ国に44もの工場を所有し、世界中で8つの自動車ブランドを展開する欧州を代表する大手自動車メーカーということを知ってるだろう。フォルクスワーゲン グループはフォルクスワーゲンのほか、アウディのブランドも展開しており、それぞれのブランド内にはベントレー、ブガッティ、ランボルギーニといった独自のアイデンティティを持つブランドも含まれている。

 また歴史的な経緯もあり、現在はポルシェがフォルクスワーゲンの筆頭株主となっており、両社は良好な協力関係を保っている。ポルシェ初のSUVとして知られるカイエンが、フォルクスワーゲンのトゥアレグと同一プラットフォームを用いた兄弟車であることを知る人は多いはずだ。

photophoto ポルシェ カイエン(左)とVW トゥアレグ(右)

 しかし、日本人の多くはフォルクスワーゲンという自動車メーカーを良く知らない。大衆車のイメージばかりが強い同社ではあるが、実は日本メーカーにはないユニークなポリシー、考え方の元に多くの車を生み出している。

 今回はそんなフォルクスワーゲンの、日本人にはなじみの少ない部分を掘り起こしていくことにしよう。

実は熱っぽい”走り”を秘めたVW

 世界でもっとも売れたタイプ1、全世界的にファミリーカーのスタンダードとして知られるゴルフがフォルクスワーゲンにもたらしたブランドイメージは、ありきたりではあるが”質実剛健”。実にドイツ車らしい、実用性に徹したポピュラーカーを生み出すメーカーと見ている人が多いことだろう。

 もちろん、その評判に偽りはないが、現在のフォルクスワーゲンは内に熱さを秘めた、実にユニークな自動車メーカーとして、幅広い車を生み出している。

 たとえば人気ブランドとして定着している”GTI”。現在はそのオリジナルであるゴルフGTI以外にも、ポロGTIなどハッチバック車のホットモデルとして定着したグレードGTIは、もともと社内の有志が集まり、「アウトバーンを安心して飛ばせるハッチバック車を」と会社を説得して生まれたものだった。

photophoto ゴルフGTI(左)とポロGTI(右)

 フォルクスワーゲンは決してスポーツカーを生産するメーカーではないが、しかし乗りやすい大衆車を作りつつも、決して走り……高速での移動、コーナーでのハンドリング、安定性……を軽視しない車作りを続けてきた。

 その成果は、前出のトゥアレグ、また日本未導入の高級セダン・フェートンに代表される高級車への積極投資もさることながら、Rラインと呼ばれる一連の高性能スポーツモデルに息づいている。

 かつて限定モデルとして販売され、現在の5代目ゴルフからはカタログモデルとなったゴルフR32は、3.2リットルV6気筒エンジンで四輪を駆動。20ミリローダウンした上にスポーティに固められたサスペンションと、通常モデルよりも2インチも大きいフロントブレーキを採用し、独特の存在感を放っている。先日の東京モーターショウでも公開されたR36は、パサートをベースにした新しいRラインだ。ほかにもトゥアレグの4.9リットルV10TDIをチューニングしたR50が計画されている。

photophoto ゴルフ R32(左)とパサートバリアント R36(右)

スペックよりも“感性”に響くクルマ

 もっとも、高級路線への展開や走りを重視した製品開発というのであれば、何もユニークさはない。フォルクスワーゲンは高級車を立ち上げ、高性能な派生モデルを生み出しているが、決してスペックだけのホットモデルを投入し、話題を作りだそうとしているのではない。

 たとえば前述のR32。足は引き締められているが、安定した旋回性能を見せつつも、意外なほどのしなやかさを併せ持ち、決して日常の中で使う車としての快適性を失っていない。エンジンも3.2リットルの強力なトルクが250PSというスペック以上のパワー感をドライバーにもたらし、専門チューナーが調律したという乾いた排気音がさらにドライバーの気分を高揚させる、スペックよりも”感性”に強く訴える仕上がりだ。

 今では国産車にも、R32的グレードが用意されるようになってきているが、本物志向のモノ作りがもたらす、感性に響く車は思いつかない。このあたりにフォルクスワーゲンという会社の車作りに対する姿勢がかいま見える。

 これは昨今話題の環境問題に対する取り組みにも同じことがいえる。この続きは次回に。

本田雅一

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テクノロジーを起点に多様な分野の業界、製品に切り込むジャーナリスト。記事執筆、講演の範囲はIT/PC/AV製品/カメラ/自動車など多岐に渡る。Webや雑誌などで多数連載を持つほか、日本経済新聞新製品コーナー評価委員、HiViベストバイ選考委員などをつとめる。専門誌以外にも、週刊東洋経済にて不定期に業界観測記事を執筆。現在の愛車はブルーのGOLF R32。

車歴:ファミリアINTERPLAY DOHC、レガシィ・ツーリングワゴンGT-B、ステージアRS Foure-V、レガシィB4 RSK、GOLF R32


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