「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」+D Style 最新シネマ情報

» 2007年05月29日 14時00分 公開
[本山由樹子,ITmedia]
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 今まではセクシーさがウリで、決して演技派とは言い難かったサトエリこと佐藤江梨子だが、今回の欲深い暴力女役は水を得た魚のごとく見事にハマッていた。

 女優志望の和合澄伽は“自分は特別な存在”と勘違いしているトンデモ女。実力の無さを棚に上げ、一向に芽が出ないのは事務所やオーディションの審査員のせいと責任転嫁していた。そんな彼女が両親の訃報を受け久々に帰郷する。そこは携帯電話の電波も入らないようなさびれた山村。妹の清深は姉との再会を喜ぶどころか怯えるばかり。実は、澄伽は自分が売れない一番の理由は、清深が過去に犯した“ある罪”にあると思い込み、いたぶっていたのだ。血のつながらない兄の穴道はなぜか澄伽をかばう。この危うい3兄妹に、東京から嫁いできたお人好しの兄嫁を加え、彼らの一触即発の関係がブラック・ユーモアたっぷりに描かれる。

 陰湿ないじめで家族を屈服させる。その暴力度合が半端でなく、兄には「ほかの女性を必要としない」と誓わせ、嫁とのセックスは禁止。妹には熱湯風呂に言葉の暴力、仕舞いには「お姉ちゃんのいいところを100個並べた歌」を村人の前で歌わせる。サトエリが捨て身の大熱演。ひょっとしたら普段もこんな感じなのでは!? と勘違いしそうなほどだ。

 兄嫁を演じた永作博美がこれまたイイ。この兄嫁、どんな不幸な目に遭おうと、いつもニコニコ笑顔を絶やさないが、趣味は呪いの人形作りと、クセ者ぞろいの登場人物の中で最も屈折した怪物めいたものを抱えている。薄幸顔が魅力の永作の妙演が、映画をビシッと締めている。

 CM出身の吉田大八監督だけに、突然、漫画のコマ割りになるなど、凝った映像も度々登場。それが奇をてらわず、ストーリーにすんなりと溶け込んでいて違和感がない。悲惨でドロドロの愛憎劇にはポップな感覚が必要なのかもしれない。記録には残らないかもしれないが、記憶には確実に残る強烈な作品。「嫌われ松子の一生」を観てクスクスと笑えた方、生ぬるい邦画は見飽きたという方は必見!

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(C) 2007「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」製作委員会

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ

監督・脚本・吉田大八/原作:本谷有希子

出演:佐藤江梨子、佐津川愛美、永作博美、永瀬正敏

配給:ファントム・フィルム

2007年7月7日よりシネマライズほかにて全国ロードショー



筆者プロフィール

本山由樹子

ビデオ業界誌の編集を経て、現在はフリーランスのエディター&ライターとして、のんべんだらりと奮闘中。アクションからラブコメ、ホラーにゲテモノまで、好き嫌いは特にナシ。映画・DVDベッタリの毎日なので、運動不足が悩みの種。と言いつつ、お酒も甘いものも止められない……。


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