番号ポータビリティーがもたらしたもの──3キャリアはどうなる?2006年の携帯業界を振り返る(3)(4/4 ページ)

» 2006年12月30日 23時58分 公開
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auのためのMNP、失敗したドコモ

ITmedia ソフトバンクに話題が偏ってしまいましたが、ドコモとauはMNPを経てどうでしょうか。

石川 auに関しては、「必勝!MNP」のバッジの通り、先手必勝でうまく行ったのかな、という気がしますね。MNPはauのためにあるようなもの、みたいな感じになりつつあるじゃないですか。先手必勝で準備してきたのが非常にうまくいったのかなあ、と思います(2006年8月の記事参照)

ITmedia イメージ戦略も成功していますね。ほとんどの人が「料金が安いのはau」と思っているようです。

石川 イメージは重要です。最初にやるってすごく大きいですよ。auは料金が安いイメージになったし、音楽といえばau、デザインならau、という状態ですから。今回の一件を見て、イメージって本当に大切だと思いましたね。仲間由紀恵だってすごい女優になっちゃったじゃないですか。そういうことも、プラスに働いているんだと思いますね。

 ドコモに関しては、おサイフケータイに力を入れすぎたかなという気もしています。おサイフケータイは便利でいいものですが、持っていて楽しいものではないじゃないですか。その点、auの携帯は、ちょっと音楽を聴いてみようかな、という感じなので持っていてなんとなく楽しい。ドコモにはそういったものがない。すべての面においてauの後追いでしかなかったような気もします。あと、こういう仕事をして、キャリアを語ることが色々とあるんですが、その際にドコモに対しての枕詞というか、見出しが付かないんですよ。auに対しては色々言えても、ドコモは個性がないというか、とりあえず、「安心・安全のドコモ」みたいに中途半端なことしか言えなかった。これはドコモの強いブランドイメージがなかったということなので、その点は弱かったかな、という気がしています。

神尾 一応、「信頼のドコモ」らしいですよ。

ITmedia すでにドコモだったらやめないけれど、MNPであえてドコモに行こう、という人もいないっていうところなんでしょうね。

石川 そうそう。日本人的といえば日本人的なのかもしれませんが。

神尾 逆にauの死角はないですか?

石川 そうですね……つながりやすいという評価になっている800MHz帯域を使っていますけれど、それがいつまでもつかなあ、というのは正直ありますね。

神尾 周波数再編までに、現在利用している800MHz帯の電波は、一旦止めなくてはいけませんからね。

石川 そのカウントダウンがもう始まっているので、そこにどう対処しますか? というところでしょうね。

ITmedia 12月から始まった上りの通信速度が高速になるCDMA2000 1x EV-DO Rev.Aもちょっとわかりにくくありませんか? 技術的にどうこうという説明は、KDDIは以前からあまりしませんが、EV-DOでパケット定額が始まったとき(2003年10月の記事参照)に導入された着うたフルのような、Rev.Aがあるからこそうれしいサービス、みたいなものが打ち出せていないような気がします。

石川 テレビ電話?

ITmedia EZ GREEで動画をアップ! とかですか?

石川 たぶん、そこも重要でしょうね。Rev.Aを使った新サービスに何を用意してくるかというのが課題でしょう。何か用意しているのかもしれませんが。

神尾 auは、マーケティングは確かにすごくうまかった。彼らの目標がはっきりしていたからですね。このタイミング、この半年間をどう戦い抜くか、ということに向かって、すべて足並み揃えて準備を整えてきましたから。ちゃんと準備してきていますからauは強いですよ。

 一方でドコモは、MNPを甘く見ていたんでしょうね。MNPが何を喚起するのかというと、MNPを使う、使わないかは別にして、ユーザーが再び“ケータイ選び”を考えるわけです。要は、iモードがスタートした1999年からの2〜3年以来、久しぶりにキャリアやケータイが再注目された。その際、ドコモはauに比べて見劣りしちゃったんですね。今まで“iモードのドコモ”であったときのブランドイメージしか持っていなくて、それもちょっと忘れかけた人が、ひさしぶりに店頭に来たら、なんだかドコモ元気ないじゃん、という状態になってしまった。また、そう見せてしまったところがドコモの失敗です。

 今のドコモで何が大事かなと考えてみると、auに振り回されるな、ということだと思うんです。auの現状を追いかけるのではなくて、auの2歩3歩先に行くこと。もちろんそれはあさっての方向じゃないことが大事です。ドコモは今、ちょっと目先に振り回されているという感じがしますね。まあ、ワンセグ端末を早くだすだとか、目先に振り回されてやらなきゃいけないこともあるんですけど。

auにはシェア30%の先のビジョンを見せてほしい

神尾 私は今のauとドコモで、auが圧倒的に強い実力を持っているかといえば、それは違うと思っています。ドコモとauの実力は拮抗しているし、ドコモが上回る部分もある。しかし、それをきちんとマーケットに伝えるという姿勢や努力が、ドコモはまだ弱い。そこを改善して、ユーザーに「ドコモのよさ」をしっかりと伝えつつ、かつもうちょっと先を見ることが大切です。iモードが出たときって、新しい世界を見たなって感じがあったじゃないですか。それが今のドコモにはないんですよね。

石川 ワクワク感がないですからね。

神尾 では今のauにワクワク感があるかというと、そうでもないんですよ(笑)。今年のauはマーケティングで成長した部分が強いので、2年くらい前のauに比べると、新しい世界を見せてくれるような感じがしない。だから正直なところ、2006年はドコモにもauにも、あまりときめかなかったな、と思います。まあ、そういう年ではなかったのかもしれないですけど。

 auは非常に好調だし、戦略は巧みだし、非の打ち所がないような、教科書に載るようなマーケティング戦略を打ってきていて、それを成功させている。もし唯一、auに不安要因があるとしたら、将来に対する骨太なビジョンが見えないという点でしょう。少し前まであった「auが変えていく」という意気込みが今のauには感じられない。あえて見せていないのかもしれないけれど。でも、それを見せられないと、勢いが止まっちゃいます。

石川 「シェア30%を目指す」とよく社長の小野寺さんもおしゃっていますが、30%に達したらどうするのかな、というのが見えないですよね。

神尾 つまり、終わりが見えているんですよ。ゴールが見えた戦いであって、ゴールの先を見ていないんですよね。シェア30%を目指すための戦略はしっかりできているし、それはたぶん成功する、すごくうまくいくと私は思っています。だけど、じゃあシェア50%の戦略だとか、50%以上、つまり、今のドコモの地位と入れ替わったあとに「日本の通信産業をどうするのか」という戦略やビジョンが見えてこない。

 ソフトバンクの孫さんがすごいな、と思うのは、彼らは「10年後には1位になる」って言っていることです。ドコモを抜くと明言している。でもauは「ドコモを追い抜いてやる。天下を取るんだ」とは言わないでしょう。そこにちょっとauの限界を感じるんですよね。だって、こんなに好調だったら、「あと5年でドコモを追い抜く」と言い切ったっていいわけじゃないですか。そのためにこういうものを準備している、というビジョンをチラ見せしてもいいわけなのに、シェア30%で終わる気か? という疑問が出てくるんです。彼らは堅実なシェアで堅実な収益が得られればいいのかな、って思ってしまいますよね。auには業界や日本全体を引っ張っていこう、変えていこう、っていう気概がないというか、要は1位になる気がないんじゃないの? と思えちゃうんですよ。

ITmedia 「ウチは3割取れればいいや」ということですか。

神尾 それで十分儲けになるから、というように見えます。でも、それはちょっと責任感のない話なんですよ。入ってきたお客さんに対しても失礼ですし、何かが起きたとき、例えば何かの成長が止まったときに、「ウチは2位ですから」という言い訳が通用しちゃうところがあるわけじゃないですか。

 ドコモとは違う方向でもいいから、トップ戦略というものを出してもいいのかな、と思いますね。万年野党でいいの? ってことです。シャドーキャビネットじゃないけど、「auがシェアトップになったら、携帯電話業界をこう変えてやる」というようなことを世界に向かって言ってもいいのではないでしょうか。ドコモは曲がりなりにも「スーパー3G」だとか「4G」、世界にどう出るか、ということを言っています。それが理想で終わっちゃう可能性もあるんですが、日本の通信業界に対する責任感は持っていますよね。auにはもっとビジョンを打ち出してほしい。

石川 そうですね。技術的なものはauも色々持っているんですけど、それを組み合わせて、というのがなかなか見えてこないですね。

神尾 マーケットに対する提案はあっても、「未来をこう変えるんだ!」という世界に対する提案が伝わってこないんです。auは終始、ビジネスライクに感じる。

石川 確かに冷めている感じはしますね。現実を見ているというか。

ITmedia それぞれの方向性はあるでしょうが、切磋琢磨してがんばっていただけるとうれしいですね。



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