Apple「iPhone」、日本上陸への注目と期待 神尾寿の時事日想:

» 2006年12月05日 10時23分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 アップルコンピュータ製の携帯電話。何とも魅惑的な響きだが、昨年から続くこの噂が、いよいよ現実味を帯び始めてきた。iPod携帯やiPhoneとよばれる“それ”についてのレポートが、外信として立て続けに届いている(12月4日の記事参照)

 筆者を含む業界関係者や多くのユーザーの注目は、iPhoneが登場するかと同時に、いつ日本に上陸するかだろう。アップルにとって日本市場は自らのプレゼンスが強く、iPodやMacintoshの売り上げにも貢献している地域である。またiPhoneはビジネス色の強い従来のスマートフォンと一線を画し、音楽を軸にした「コンシューマー向けのハイエンドモデル」というコンセプトになる可能性が高い。それは日本の携帯市場とも合致する。仮にアップルがiPhoneの準備を進めているとすれば、日本市場への投入は当然ながら考えるはずだ。

春商戦に間に合えば「春の嵐」になる

 むろん、日本にはキャリア主導型市場という特殊性はある。しかし、MNPが開始されたことで、キャリアにとって「魅力的な端末」でラインアップを固めることが、従来よりも重要になっている。特に“攻める立場”であるドコモ以外の2社は、話題性やブランド力のある端末は大きな戦力になる。それはソフトバンクモバイルの「アクオスケータイ」(5月18日の記事参照)でも実証されたことだ。筆者は、仮にアップルからiPhoneが登場すれば、日本市場にも上陸する可能性は十分にあると考えている。

 では、iPhoneの日本市場への影響力はどれだけあるか。その成否も含めて、重要になるのは登場のタイミングだ。さらに言えば、「春商戦に間に合うか」である。

 現在、日本の各キャリアは年末商戦に注力しているが、周知のとおり、MNPの天王山は来年の春商戦である。ここは新生活向けの商戦であると同時に、多くのユーザーが年間契約割引の更新月を迎える。一般ユーザー層が、各キャリアの端末ラインアップや料金、そしてMNPに注目することになるだろう。

 この春商戦で重要になるのは、魅力的なエントリーモデルと、一般ユーザーに話題性のあるモデルだ。後者の代表的な例は、シャープのアクオスケータイやソニーエリクソンのウォークマンケータイ(5月22日の記事参照)などだが、ここにアップルのiPhoneが投入されれば、そのインパクトは大きい。どれだけ売れるかは製品内容にもよるが、「アップルの携帯電話」という話題性だけで“春の嵐”になることは間違いない。特に春商戦の主役である若年層や女性層の注目を集めるだろう。

アップルは日本に“水平統合”を持ち込めるか

 さらに中長期的な視野に立てば、アップルのiPhoneが日本市場に“水平統合型”のモデルを持ち込めるかも注目である。

 日本市場では、端末・インフラ・サービス・コンテンツプラットホームのすべてをキャリアが主導する垂直統合型モデルが採られている。このモデルは新たなサービスやソリューションを迅速に普及させる上で効果があるが、今後、インターネットのサービスまで連携・統合されるようになることを考えると、キャリア1社ですべてを主導する限界や閉塞も生じる。かといって、単純な水平分業モデルの導入では、携帯電話のようにUIの制約が多い環境では、ユーザビリティを大きく損なうだろう。筆者は、キャリア主導型の垂直統合モデルに対して市場の裾野を広げる役割を果たすのが、優れたユーザビリティとサービスを提供できる“厳選された”プレーヤーによる水平統合モデルの導入だと考えている。

 その最初の提供者として、アップルは適任だろう。同社に優れた水平統合モデルを実現する力量があることは、iPodの成功を見れば明らかだ。日本のキャリアが自らのサービスやコンテンツプラットホームの導入を強制せず、パケット料金定額制だけ提供して、アップルに水平統合モデルの構築を許せば、新たな市場の可能性が生まれるのではないだろうか。

 いずれにせよ、アップルのiPhoneが本当に登場するかは、正式な情報が未だ一切ない状況だ。だが、その仮定が現実になり、日本上陸を果たせば、その影響が様々な形であるのは間違いないだろう。期待を持って注目していきたい。

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