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神尾寿の時事日想:

アナログテレビ終了後の帯域争奪戦、ポイントは「モバイル向け放送」と「クルマ」(後編)

700MHz帯を狙っているプレイヤーは携帯・放送関連業界だけではなく、自動車業界も名乗りを上げている。複数の業界をクロスオーバーすることで、新しい市場が順調に立ち上がるとするならば、その仲立ちにふさわしいのは携帯事業者ではないだろうか。
2006年12月01日 17時34分 更新

 アナログテレビ終了後、新たに再編・割り当てられる帯域をめぐり、様々な業界・企業の“周期数獲得合戦”が起こり始めている。その中でも注目は、扱いやすい700MHz帯の動向だ。すでにクアルコムジャパンを始めとする「MediaFLO」の推進グループが獲得に向けて前向きな発言をしているほか、11月29日に設立が発表された「マルチメディア放送企画 LLC合同会社」(MMBP)もISDB-T方式によるモバイルマルチメディア放送で同様の狙いを持っていると考えられる(11月30日の記事参照)

 ドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルの携帯電話キャリア3社は、結果として「携帯電話とモバイル向け放送」という組み合わせで、それぞれ700MHz帯の獲得に向けて動き始めたことになる(11月29日の記事参照)。ここに放送業界も加わることで、「携帯電話と放送」のタッグが形成されそうだ。

自動車業界も独自に700MHz帯獲得に動く

 一方、携帯電話/放送業界タッグの強力なライバルになりそうなのが、自動車業界である。すなわち、クルマ向けの“専用”通信インフラ構築を目指す動きだ。

 現在、自動車業界が専用で使える周波数はETC/DSRCが使う5.8GHz帯と、ミリ波レーダー用の66GHzと77GHzである。しかし、これらは狭域通信や近距離測距用として割り当てられた周波数なので、クルマ同士が通信する「車車間通信」やクルマ向け情報サービスの「テレマティクス」では使いにくい。

 自動車業界では車車間通信やテレマティクスなどITS用途として、携帯電話インフラが無料もしくは低価格・定額でキャリアから“開放”されることに期待する考えがあった。しかし3Gが全盛の今になっても、携帯電話インフラの通信料はクルマ向けとして使いやすい料金体系になっていない。

 一方で、プローブカー/フローティングカー、車車間通信、路車間通信を使ったインフラ協調型安全システム、デジタル地図の差分更新など“クルマが繋がる”ための通信インフラの必要性は高まるばかりである。そこで、クルマ向けの新たな通信インフラを持つという考えが広がり始めているのだ。

 実際、今年6月に発表された総務省の「VHF/UHF帯に導入を計画又は想定している具体的システムの提案募集の結果」(参考)でも、トヨタ自動車が「インフラ協調安全運転支援システム」、デンソーが「車車間通信システム」として提案を行っている。

 今のところ自動車業界からの新周波数獲得の動きは、ITSに特に熱心なトヨタグループが目立つが、筆者は最終的に国土交通省のASV(先進安全自動車)の開発計画に携わった国内の乗用車・商用車・二輪車メーカー11社にまで広がる可能性があると考えている。なぜなら、このASV開発計画の第三期(ASV-3)において、この11社は5.8GHz帯のDSRCだけで車車間・路車間通信を実現する難しさを感じていたからだ。

 また安全目的以外でも、プローブカーやデジタル地図差分更新などのニーズがあることを鑑みれば、総合的なクルマ向け通信インフラの構築にむけて、国内11メーカーがまとまるシナリオは十分に考えられる。そうなれば、周波数獲得競争での影響力は大きいだろう。

携帯電話業界が仲立ちになれないか

 筆者は「放送の進化」と「クルマの進化」のどちらにも新たに周波数を求めるだけの必要性があり、新市場の可能性があると考えている。そして幸いなことに、携帯電話業界はどちらにもすでに接点を持っている。

 アナログテレビ終了後の周波数獲得をめぐる動きは、ともすれば“陣取り合戦”となってしまうが、携帯電話業界が仲立ちになることで「携帯電話・放送・クルマ」すべてが「WIN=WIN」になる構図は描けないものだろうか。

 どこか特定の業界のためだけでなく、複数の業界をクロスオーバーさせることで新たな技術・サービス分野と新市場が拓ける。そのような展望が実現できるプレイヤーこそが、新たな周波数を受け取るにふさわしいと思う。

[神尾寿,ITmedia]

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