アナログテレビ終了後の帯域争奪戦、ポイントは「モバイル向け放送」と「クルマ」(前編)神尾寿の時事日想:

» 2006年11月30日 16時22分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 11月29日、NTTドコモとフジテレビ、ニッポン放送、スカイパーフェクト・コミュニケーションズ、伊藤忠商事が、5社の共同出資による合同会社「マルチメディア放送企画 LLC合同会社」(略称MMBP)を設立すると発表した(11月29日の記事参照)。MMBPは地上デジタル放送と同じISDB-T方式による新たなマルチメディアサービスの研究や技術調査、サービスモデルの検討を目的とし、2011年のアナログ放送後の周波数獲得を目指すという。

 アナログテレビ終了後の帯域については、VHF/UHF帯で「90M〜108MHz」「170M〜222MHz」「710M〜770MHz」の3カ所に空きができることが分かっており、中でも激戦区になりそうなのが700MHz帯の獲得だ。ここは通信業界、自動車業界、放送業界が虎視眈々と狙っている。今回のMMBP設立は、ドコモが放送業界のプレーヤーと手を組み、より積極的な周波数獲得を目指す姿勢の表れといえるだろう。

“ワンセグの発展”としてのモバイル向け放送

 700MHz帯を始めとする新たな周波数獲得において、まず注目されているのが「携帯電話と放送の連携」である。

 現在のワンセグ対応携帯電話は、固定テレビのサイマル放送の視聴で普及期に入り、店頭での訴求力は高い。だが、携帯電話のコンテンツメディアサービスとの連携はいささか不十分であり、その特性にあった「タイムシフト視聴」や「多チャンネル化」の可能性も開拓できていない。“ワンセグ対応”のブームによって、携帯電話の動画再生機能は大きく底上げされつつある。この機能とコストの増大分を生かすために、固定テレビの枠組みに縛られない「携帯電話向けの放送サービス」の実現と普及は重要なテーマである。

 しかし、既存のワンセグが“非サイマル化”されるかというと、それは望み薄だ。カーナビやポータブルゲーム機、はては電子辞書(11月20日の記事参照)にまでワンセグ視聴機能が搭載された今となっては、今のワンセグ放送を変えることは不可能に近い。携帯電話などモバイル向け放送には、新たな周波数によるサービスが必要になる。

 すでにモバイル向け放送の可能性を模索し始めているのが、クアルコムとKDDIが共同出資する「メディアフロージャパン」(2005年12月の記事参照)、そしてソフトバンクが全額出資する「モバイルメディア企画」だ(7月18日の記事参照)。どちらも米QUALCOMMが開発した携帯向け放送技術「MediaFLO」(2005年2月の記事参照)の採用を検討し、日本での旗振り役であるクアルコムジャパンは700MHz帯の獲得について度々言及している(2005年12月の記事参照)

 MediaFLOについては、筆者もアメリカ サンディエゴでの試験放送や日本のワイヤレスジャパンでのデモンストレーションを見ているが、その画質やモバイル環境での使いやすさ、さらに多チャンネル化やクリップキャスト放送を重視している点などを高く評価している(3月3日の記事参照)。またISDB-T方式では対応端末をそのまま輸出することはできないが、MediaFLOならば近く商用サービスが始まる北米をはじめ、日本メーカー製の端末を海外市場に展開しやすくなる。

 一方、今回発表されたMMBPは、ドコモやフジテレビが参加し、ISDB-T方式を推すことで、MediaFLO陣営の有力な対抗馬になりそうだ。こちらの強みはフジテレビやスカパー!など、実際に動画コンテンツを扱うプレーヤーが参加していることだ。ISDB-T方式を推進することで、日本の放送業界の支持を得やすく、固定テレビやワンセグ放送との連携もしやすい。コンテンツの確保という点では優位性がありそうだ。

 現在のワンセグ市場の盛り上がりを見ていると、アナログテレビ終了後の新たな周波数獲得において、携帯電話など「モバイル向け放送」の動向が重要な役割を果たすのは間違いないだろう。MediaFLO陣営とMMBPが、今後どのような形でサービスモデルやビジネスモデルを構築し、周波数獲得に向けて動くのか。また、現時点ではドコモがISDB-T方式、KDDIとソフトバンクがMediaFLO方式と陣営が分かれた形だが、今後の周波数獲得や商用化にむけてそれぞれどのような動きを見せるかも注目である。

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