“MNP以降”の逆風の中、メーカー再編の新たな予兆 神尾寿の時事日想

» 2006年11月27日 18時22分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 11月24日、三洋電機が携帯電話とデジタルカメラの両事業を抜本的に見直すと発表した(11月24日の記事参照)。経営再建中の同社にとって、携帯電話とデジタルカメラは、依然として競争力のある電池事業と並ぶ中核事業だった。しかし、収益構造の悪化を免れず、生産の海外移転を含めて生産体制を見直すなど、コスト構造の改善に取り組むという。

 三洋電機の携帯電話事業は今年2月にノキアとの合併会社設立が発表されながら、その4ヶ月後の今年6月に交渉を断念するという“スピード離婚”をした経緯がある(6月22日の記事参照)。当初、三洋側は得意なCDMA端末を軸に、ノキアの力を借りて海外市場向け販売の拡大で活路を見い出そうとしたが、その計画が挫折したことにより、再び「国内市場」に押し込められた格好である。

新規市場は厳しく、買い換え市場も遠のく

 「3年後、いったい何社が生き残れるのか」

 筆者はメーカーやキャリア、サプライヤーの関係者と意見交換をする機会が多いが、その席でこのような議論が行われることが増えた。現在端末メーカーは「MNP特需」にあるが、その先を見れば市場環境の見通しは明るくはないからだ。むしろ、逆風が吹き始めている。

 まず、国内市場の契約数そのものが飽和状態にある。TCAの最新発表値では、国内の携帯電話契約数は9400万契約を超えた(ドコモ、auは通信モジュールも含む)。その9割近くが個人契約と見られており、少子高齢化で人口減少化社会になった日本において、コンシューマーの新規市場は完全に飽和したと言ってよい状況だ。

 今後「新規市場」として拡大が期待できるのは法人市場であり、それによって産み落とされる“ダブルホルダー層”だが、そちらの拡大ペースはコンシューマーほど急速ではない。またコンシューマー市場以上に、“勝ち組”と“負け組”がはっきりする可能性がある。1990年代半ばから携帯電話産業を支えてきた“右肩上がり契約者増加”は、もはや望めない状況にある。

 一方、携帯電話は機種変更による「買い換え市場」が大きいのがメーカーの救いになっている。しかし、そちらも先行きにも翳りが見え始めてきた。MNPにおいてキャリアが打ち出した各種競争施策の影響だ。

 その顕著なものは、ソフトバンクモバイルの「新スーパーボーナス」だろう。割賦制を採用した同方式では、ユーザーは購入価格が安く抑えられる代わりに、購入端末の利用期間が明確に定められる。ソフトバンクモバイルは1年や1年半の利用期間設定のプランも用意しているが、割賦時の負担額や条件を鑑みれば、多くのユーザーが利用期間2年の契約を選ぶことは間違いない。

 ソフトバンクモバイルでは「(新スーパーボーナスの利用期間である)2年は平均的なユーザーの端末利用期間」(ソフトバンクモバイル幹部)と話すが、“結果として2年間同じ端末を使う”のと、“契約で2年間の利用が定められる”のとではユーザーの受ける印象はやはり異なる。機種変更意欲を抑制してしまう可能性が高い。

 ドコモとauは割賦制の導入には今のところ消極的であるが、両社ともMNPのタイミングにあわせて最新機種やハイエンドモデルの拡販に力を入れており、この年末商戦から春商戦にかけて「新端末」を手にするユーザーは市場全体で大きく増える。一方で、ユーザーの料金プランでの囲い込み施策を強化し、優待サービスとして交換バッテリーの無料化なども行っているので、「買い換え市場」はそのサイクルが遠のく。特に来年は頼みの買い換え市場も冷え込むだろう。

海外を視野に「強くなるための再編」に期待

 日本市場の環境が変化する中で、国内メーカーを取り巻く状況はさらに厳しいものになってくる。特に来年後半は、キャリアと販売店がMNP商戦でだぶついた在庫を持て余し、かといって競争上ラインナップの整理・縮小も難しく、メーカーがさらなる“コスト削減”と“多品種・少量生産”を求められるというシナリオは十分に考えられる。さらに買い換えサイクルの谷間にも入る。

 この冬の時代に前後して、再びメーカー同士の合従連衡や再編、淘汰の動きが出てくる可能性は高い。まず注目なのは三洋電機の携帯電話事業の去就であるが、それ以外のメーカーでもプラットホームの共有化をはじめとする合従連衡や携帯電話事業の合併、ともすれば淘汰・撤退という動きも出てきそうだ。

 最終的に日本の携帯電話メーカーはどうなるのか。筆者はメーカー再編により、国内11メーカーが実質的には3〜4のグループとしてまとまる必要があると考えている。しかし、それは飽和・成熟化した日本市場に引きこもるための再編であってはならないとも思う。各メーカーが今後の国内市場でも十分に収益をあげられる構造を作り、一方でメーカーとしての個性やブランド力をこれまでよりも強化する。その先には、海外市場への進出・シェア拡大を見据えてほしい。

 日本の携帯電話関連メーカーは、デバイスでは世界一、端末メーカーとしての実力もハイエンド分野を中心に低くはない。来年以降、国内市場の変化にあわせて、どのような形でメーカー再編が起きるのか。また、それは携帯電話メーカーの事業基盤を強化し、将来への発展性に繋がるものになるのか。その行方をしっかりと見守っていきたい。

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