「ケータイ活用」で客足を取り戻せ――iDを導入する仙台6商店街の狙いとは? 神尾寿の時事日想: (1/2 ページ)

» 2006年11月09日 11時25分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 JR仙台駅から始まり、T字路に展開する6つの商店街が一斉に、ドコモと三井住友カードのFeliCaクレジット決済「iD」(2005年11月の記事参照)を導入した。全国的に見ても大規模で珍しい今回のiD導入はなぜ行われたのか。また、商店街は何に期待しているのか。

 iD導入で中心的役割を果たした、クリスロード商店街振興組合常任理事の松沢等氏にインタビューを行い、商店街の携帯電話サービスへの期待、iD導入の背景などを聞いた。

photo クリスロード商店街振興組合常任理事の松沢等氏

6つの商店街が結束した理由は“全国で共通の問題”

photo 6商店街では、タウン情報誌「街Navi 仙台」や「machinavi PRESS」を共同で手がけており、QRコードを活用したケータイ連携の情報提供を行っている

 先日のレポート記事(9月25日の記事参照)でも触れたように、仙台の6商店街ではiDを導入する以前から、フリーペーパーのタウン情報誌「街NAVI 仙台」や携帯電話サイト「街NAVI仙台」(http://www.navi-s.com/)を提供しており、商店街同士の協力体制ができていたという事情がある。しかし全国的に見ても、異なる商店街が綿密な連携体制を整えているケースは珍しい。なぜ仙台の6商店街は連携する体制ができていたのだろうか。

 「仙台の商店街は仙台駅からT字型に連なっており、これが(仙台の)中心部商店街を形成し、仙台の商業を担ってきました。しかし全国的に広がる“中心部(経済)の地盤沈下”が、仙台でも十数年前から起きています」(松沢氏)

 原因は郊外型の大規模ショッピングセンター(SC)の台頭だ。これは愛媛県松山市の伊予鉄「い〜カード」の関連インタビューでも語られたが、モータリゼーション以降、“クルマでしか移動できない”郊外型の住宅地と大規模ショッピングセンターが地方経済の中で大きく成長し、公共交通と駅を軸とした商店街が衰退する。これはクルマ社会の負の部分として、全国の地方都市に見られる問題である。

 「客足を郊外に奪われるというのは、全国的な傾向です。仙台は全国的に見ればまだ恵まれている方だと思いますが、商工会議所の調査結果を見れば通行量は着実に減っています。

 30年前を振り返ると、東西に伸びる中央通りの(3つの)商店街と南北に伸びる一番町(3つの)商店街の競争でした。商店街同士が切磋琢磨し、お互いに業績が伸びるという良い時代だったのですが、今はファミリー層を中心に、郊外型SCにお客様を奪われるという状況になっています」(松沢氏)

 家族連れが郊外型SCに流れていく。この状況の中で、ライバル同士だったそれぞれの商店街の中に「今は商店街同士が争うような状況ではない。そういう機運がこの十数年間で高まってきた」(松沢氏)という。

 このような機運から、これまでライバルだった商店街同士の連携が次第に注目されるようになった。

 「最初のきっかけは年末大売り出しの抽選券でした。これまで中央通りと一番町で別々の抽選券だったのですが、お客様の視点に立てばこれは不便です。まずは年末大売り出しから、合同の取り組みをすることになりました。

 その後、一年を通じて(異なる商店街が)共同の取り組みをする上で、共通インフラが必要だという考えになりました。その中でドコモ(東北)さんから『携帯電話と商店街のコラボレーションができないか』という提案をいただき、(携帯電話を共通インフラとした取り組みを)何かやろう、ということになりました」(松沢氏)

 その最初の取り組みになったのが、携帯電話のQRコードを活用したメディア展開だ。フリーペーパーのタウン情報誌にQRコードを掲載し、各個店の携帯電話サイトに誘導するという仕組みである。まずは実験的な位置づけとして、2005年3月に中央通り商店街の1つであるクリスロード商店街のタウン情報誌「クリスロードナビ」が誕生した。この取り組みには、クリスロード商店街の9割以上の店舗が参加したという。

 「クリスロードナビで目に見える形として事例を作ったことで、その後、他の商店街に参加を促しやすくなりました。QRコードを使った店舗サイトへの誘導も大きな成果がありました。そして、その後の2005年12月に(6商店街が参加する)『街NAVI仙台』が生まれています」(松沢氏)

 中心部商店街の活性化。その共通の目的から6商店街の距離が近づき、そこにドコモ東北が加わって携帯電話サービスと連携した共通インフラ作りが始まった。これが今回の「6商店街でiD同時導入」の下地になったのだ。

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