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Linuxコミュニティを武器に携帯分野で躍進──「Qtopia」で頭角を現すTrolltech

3G携帯開発で汎用OSの採用が相次ぐ中、注目を集めているのがLinux OSだ。Linuxベースのアプリケーションプラットフォーム「Qtopia」の開発を手がけるノルウェーのTrolltechに、同社のビジネスモデルと戦略について聞いた。
2006年10月10日 15時00分 更新
Photo Trolltechの共同創業者兼共同CEO、Eirik Chambe-Eng氏

 モバイル分野にもオープンソースの波が押し寄せている。NTTドコモのFOMAの一部機種に採用されるなど日本では早いスタートを切ったLinuxだが、世界のスマートフォン市場をみると、シェアトップのSymbianに大きく水を空けられているのが現状だ。そんな中、携帯向けLinuxの世界で頭角を現しつつあるのが、米Motorolaなどが採用するノルウェーのベンダー、Trolltechが開発する「Qtopia」。7月にはオスロ証券取引所でIPOを果たすなど(7月6日の記事参照)、業績も好調な同社の共同創業者兼共同CEO、エリック・チャンブ-エング氏に話を聞いた。

──Trolltechの事業とこれまでの経過を教えてください。

チャンブ-エング氏:Trolltechの設立は1994年で、ハーバード・ノードと私が立ち上げました。当初から、オープンソースコミュニティと協力し、デュアルライセンスというビジネスモデルを市場に導入することに取り組んでいます。

 最初のメジャー製品ラインは「Qt」で、GUIにフォーカスした包括的な開発フレームワークです。Linux、UNIX、Mac OS、Windowsをサポートしたクロスプラットフォームであるのが特徴です。現在、QtはLinux Standard Base(LSB)の一部となっており、この標準に準拠するLinuxシステムを構築するためには、Qtを含む必要があります。

 1999年頃、Linuxの方向性の1つにPDAや携帯電話などのモバイル分野があると判断しました。この分野はそれまで社内開発の独自OSが独占していましたが、ハードウェアの高機能化に伴い、本物のOSが必要になることが予想されていました。我々は「ここにLinuxはフィットする」と考えたのです。

 そこで、「Qt for embedded Linux」の開発を開始し、2000年に最初のバージョンをリリースしました。その後、我々の顧客がソフトウェア開発からハードウェア側にシフトし始めたことから、包括的なソリューションを提供する必要があると考えました。そこで、Qtをベースに、第2のメジャー製品ラインの「Qtopia」を開発し、2002年第1四半期にリリースしました。組み込みLinux端末開発のためのプラットフォームで、携帯電話とPDAにフォーカスしたものです。

──デュアルライセンスモデルについて教えてください。

チャンブ-エング氏:Trolltechの製品は我々が社内で開発を行い、IP(知的所有権)を所有・管理します。デュアルライセンスとは、無償で我々の技術を使いたい場合はフィードバックなどで貢献し、商用で使うなら対価(ライセンス料)を払ってもらおう、という考え方です。

 このモデルの長所は、品質管理の点でフィードバックを得られることです。24時間ごとにソースコードの“スナップショット”を公開していますが、常時、数千人単位の開発者が我々の技術をテストしており、フィードバックを返してくれます。製品の開発速度、安定性などの面で大きなメリットがあります。

 デュアルライセンスは、我々がスウェーデンのMySQLらとともに開始したモデルですが、ここに来て、市場の理解を得られてきたと思います。今後も、ユーザーとの対話を重視していくつもりです。

──スマートフォン向けのOSにはSymbian、Windows Mobileなどがあり、Linuxは後発となります。この市場の競争をどのように見ていますか? また、Qtopiaの強みは何でしょうか?

チャンブ-エング氏:Qtopiaをはじめ、Linux陣営にとって、好意的な流れができてきたと見ています。独自OSから標準的なOSへ、モバイル端末業界がシフトしているからです。たとえばMotorolaは、“スマートフォンはLinux”と明言しています。

 Qtopiaは、先ほどの技術コミュニティによるフィードバックモデルに支えられた強い技術があります。また、Linuxを見ても同じで、常にイノベーションが起こっています。我々の戦略としては、低いレベルのカーネルで米Wind River Systemsや米MontaVista Softwareなどと協力し、効率的なソリューションを提供することです。Wind RiverやMontaVistaのLinuxカーネルとQtopiaの組み合わせは、非常にパワフルなソリューションです。Motorolaのほか、中国のZTE、蘭Philips Semiconductors(NXP Semiconductors)、台湾のWistronなどの採用事例があります。

 Windows MobileはデスクトップOSからモバイルに進出したOSで、デスクトップでとっているような事業モデルをとるのではないかと、携帯電話業界全体は恐れているようです。

 Symbianは、現在大きなシェアを持っています。ただSymbianはGSMベースの携帯電話に特化してきたもので、フォーカスを広げようとしているようですが、対応は遅れています。顧客の中には、簡単なUIの変更が難しいとイライラしているところもあるようです。Symbianはまた、Nokiaを株主に持つことから、Nokiaの影響は避けられません。これを恐れている企業もあるようです。

 分野としては、ハイエンド端末はWindows MobileやSymbian、ある機能に特化した端末にはLinuxが適していると思います。

──そのSymbianとNokiaも、このところオープンソース化の動きを見せています。

チャンブ-エング氏:興味深い動きです。ミドルウェア分野でのオープンソースの実力を示すもので、オープンソースの開発上のメリットから、このモデルを受け入れなければならないと感じているのでしょう。

 課題はコミュニティの構築でしょう。多くの人がテストし、フィードバックする──。これなしには、成功は難しいと思います。ソースコードを公開したからといって、この流れを作ることはできません。時間をかけて取り組まなければコミュニティは立ち上がりません。

──モバイル分野のLinuxに技術的な課題はあるのでしょうか?

チャンブ-エング氏:LinuxはSymbianやWindows Mobileに急速に追いついており、レベルも近くなってきました。さらには、イノベーションも起きてきています。たとえば、Motorolaが中国で提供しているQtopiaベースの「Ming」では、通常のSymbian端末より早い起動時間を実現しています。また、セキュリティでは、Qtopiaには“Sandboxing”という安全な実行環境「Safe Execution Environment」があります。プログラムやプロセスがある一部のシステムにアクセスできないよう保証するものです。

──現在、モバイルLinuxを巡ってさまざまなアライアンスや業界団体が登場していますが、これをどのように見ていますか?

チャンブ-エング氏:Linuxをそのまま携帯電話で動かそうとしても、カーネルの低いレベルで課題がたくさんあります。モバイル機器はスリープモードや起動時間など、特別の作業が必要です。現在、Linux周りで生まれているアライアンスはすべて、形は違ってもLinuxの標準化に取り組むものです。成果が出てくるでしょうが、複数の会社が絡むと利害関係の対立もあり、うまくいきにくいようです。逆にいうと、それだけLinuxへのニーズが高いということを裏付けるものといえます。

──日本のLinux携帯電話市場をどう見ていますか?

チャンブ-エング氏:日本は最先端をいっており、スマートフォンOSに占めるLinuxのパイの中で3分の2が日本です。ですが、まだQtopiaベースの製品は日本市場にはありません。我々は、日本と中国を最重要市場ととらえており、取り組みを強化していく意向です。

[末岡洋子,ITmedia]

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