QUICPayに本腰を入れる理由は?――トヨタファイナンスの戦略 (前編) Interview: (2/3 ページ)

» 2006年09月12日 17時35分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 信販系や銀行系のカード発行会社では、プロパーカードよりも提携カードの発行が主体になるケースが増えている。しかし、トヨタファイナンスはプロパーカードが9割とその比率が高い。これを支えているのが、全国に5000軒以上あるトヨタ車の販売会社(ディーラー)だ。

 「トヨタのクルマをご購入いただくお客様には、ディーラーが必ずTS3カードをお勧めするスキームができています。実際にお客様のカーライフに貢献しますし、(クルマの)購入時からキャッシュバックという特典が受けられますから加入率は高い。自動車ディーラーですと、お客様にカードサービスの説明がしっかりできるのもポイントですね。我々のプロパーカードは、会員獲得のルートがしっかりとあるのです」(宮本氏)

ディーラーとGSでロードサイドの上流を押さえる

 クルマを軸とした生活シーンでの利用増を狙うトヨタファイナンスにとって、QUICPayの加盟店開拓でターゲットになるのは、道路沿いに構築される経済圏、いわゆる「ロードサイド市場」だ。

 「まずはトヨタのディーラーでQUICPayに対応します。自動車ディーラーは現在、新車の販売だけでなく、オイル交換や定期点検などサービス販売に力を入れているのですが、ここで(QUICPayによる)キャッシュレス化への期待があります」(後藤氏)

 自動車ディーラーでは以前から通常のクレジットカードには対応している。しかし、今後のディーラービジネスの中で重視されているサービス販売で扱う金額は3000円〜5000円の中額決済が多く、「クレジットカードの利用を躊躇されるお客様がいる」(後藤氏)。

 国内の新車販売台数が頭打ちになる中で、クルマ関連の消耗品販売や各種サービス販売の拡大はディーラーにとって重要なミッションになっている。さらに顧客のサービス入庫率が高いディーラーは、その顧客の新車乗り換え時に再び選ばれる率が高い。ディーラーがサービス販売の利便性向上のためにQUICPayを導入することは、長い目で見れば新車販売機会の創出に繋がる。

 一方、ロードサイド市場全体を俯瞰した時、自動車ディーラーと並んで上流に位置するのがガソリンスタンドである。この分野でトヨタファイナンスはジャパンエナジー(JOMO)の提携カードを手がけている。

 「当然ながら、JOMOは早い段階からQUICPayを導入していきます。これはセルフスタンドとフルスタンドの区別なく、全店展開の方向になっていくと思います。さらにQUICPayが使えるという見方でいけば、他の石油元売りブランド(のガソリンスタンド)でも使えるようになっていきますよ。まだ発表段階にありませんが、そのための準備は進めています。来年度になれば、ガソリンスタンドで(QUICPayなどFeliCaクレジットが)使えるのは当たり前になるでしょう」(宮本氏)

膝元の中部地方からQUICPayを普及

 トヨタファイナンスはQUICPayの普及を全国で推し進めていくが、特に名古屋を中心とする中部地方には力を入れる。トヨタファイナンスを含むトヨタグループの地元が名古屋であり、「膝元をしっかりと押さえるというのが、トヨタ全体の考え方だから」(宮本氏)である。

 さらにトヨタファイナンスが名古屋を始めとする中部地域を重視するのは、普及戦略としても合理的だ。名古屋は東京や大阪に並ぶ大都市経済圏であるにも関わらず、クルマの利用率が高い。公共交通と自動車交通の利用比率は3:7であり、これは自動車先進国における平均的な数値だ。当然ながら、都市機能や経済圏、そこに住む人たちの生活もクルマ中心。トヨタファイナンスが得意とする“ロードサイド市場”でのQUICPayの展開がしやすい。

 しかし、トヨタファイナンスでは、中部地方で「ロードサイドだけに限った普及をしていこうとは考えていない。街全体を押さえていく」(後藤氏)という。

 「もちろん、郊外の幹線道路沿いのロードサイド市場には積極的に展開します。しかし、それだけではなく、名古屋中心地域も面で押さえていく。我々自身がアクワイアラとして加盟店開拓を行います」(宮本氏)

 トヨタファイナンスが、名古屋市中心部のQUICPay展開を重視するには理由がある。トヨタの東京本社機能の大半が、名古屋に移転するのだ。

 「(2007年3月に)名古屋駅前にミッドランドスクウェアがオープンし、ここにトヨタの本社機能が入ります。このミッドランドスクウェアは『QUICPayビル』になりますから(笑)」(後藤氏)

 ミッドランドスクウェアは複合型のオフィスビルであり、入居する店舗はすべてQUICPay対応。さらに「ミッドランドスクウェア周辺の(名古屋中心部の)地下街や店舗もすべてQUICPay対応になるでしょう」(宮本氏)。

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