IEEE802.20は本当に標準化されるのか──クアルコムの取り組み(2/2 ページ)

» 2006年09月07日 18時42分 公開
[園部修,ITmedia]
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次世代通信技術の要素技術にも802.20を用いる

 すでに標準化を終えたモバイルWiMAXは、日本国内のキャリアも積極的に採用を見据えた実証実験に取り組むなど、実用化へ向けて順調に歩みを進めているように見える(2月9日の記事参照)。しかし、802.20の技術的な優位性は明らかであり、QualcommはWiMAXをサポートする予定はないという。

 山田氏は「モバイルWiMAXに積極的に取り組むのは大きな賭けだ」と言い切る。「モバイルWiMAXを推進している企業の名前を見てみてほしい。半導体事業社のIntelを除けば、SamsungやMotorolaといった、世界の携帯電話インフラビジネスから脱落したメーカーが名を連ねている。彼らは、現行の3G携帯のインフラビジネスでは事業性が悪くなっているので、モバイルWiMAXに積極的に関与することで大きな賭けに出ている。」(山田氏)

 アグレッシブにギャンブルに出て事業機会を作るのは、1つのビジネススタイルだ。当たれば先行者メリットは大きい。ただし、外れたときの痛手も大きい。山田氏は「おそらく彼らは技術を精査してモバイルWiMAXを選んだというよりも、時間軸で考え、インフラビジネスでの劣勢を挽回するために、実用化で先行しているモバイルWiMAXを推進しているのだろう」と看破した。

 「モバイルWiMAXと802.20を比較すればするほど、その差は歴然としていることが分かる」と山田氏は話す。Qualcomm社内には、WiMAXも手がけてはどうかという議論もあったそうだが、あまりにも性能が悪く、使うに値しないという結論に至ったという。「我々としては、WiMAXとは一線を画し、3G技術の進化系である3GPP2のPhase2や3GPP LTE、HSPA+などの技術開発およびチップへのインプリメントを速やかに行うつもりだ。WiMAXとの競争で苦戦することはないと見ている」。

 山田氏が指摘した3GPP2 Phase2とは、CDMA2000 1x EV-DO系の最新技術で、一部ではEV-DO Rev.Cなどとも呼ばれているものだ。OFDMAを用いてMIMOやSDMA技術を採用し、非常に高速なデータ通信を可能とするもので、実は802.20で標準化中の技術を要素技術として採用している。3GPP2 Phase2は、KDDIや米Verison Wireless、米Sprint Nextelなど、いち早く次世代のテクノロジーを必要としているキャリアがリードしており、開発のスピードが上がっているという。またQualcommは3GPP LTEにも積極的に貢献しており、4社のメインコントリビューターの中では最も貢献度の高い企業だ。3GPP LTEに関しては、最終スペックの記述メンバーにも選ばれている。

 「802.20の技術は、次世代通信の要素技術としても活用していく方針だ。モバイルWiMAXのように、802.20だけでのビジネスというのはにわかには存在しないかもしれないと考えている。ただ、802.20が“3Gの技術”だと判断されてしまうと、その技術が使えない周波数帯が出てくる可能性があるので、そうはしたくない。ある周波数やある用途は、3Gでない技術を使うことが条件になったとき、IEEEの下で標準化された802.20だからできることもあるはずだからだ」(山田氏)

モバイルWiMAXには3Gの技術で対抗

 そうは言っても、モバイルWiMAX陣営は多数のパートナー企業を抱え、WiMAXフォーラムは賑わいを見せている。WiMAXは機器コストが安いというメリットも声高に叫ばれている。商用化のタイミングを考えると、選択肢はモバイルWiMAXしかない、といった意見もあるように(2月9日の記事参照)、単に技術面での利点だけを主張していればいいというものでもない。QualcommはモバイルWiMAXにどう対抗していくのだろう。

 「モバイルWiMAXは、Intelが中心に推進していることもあって、CentrinoでWi-Fiをチップセットに統合したように、いずれPCのチップセットにWiMAXの機能が統合されるだろう、とみなが漠然と信じている。その結果、インフラさえ作っておけば端末は自然に普及するので商売がしやすい、という解釈を与えている。しかし、おそらくそんな簡単にはことは進まない」と山田氏は指摘する。

 機器のコストについても、山田氏は異論があるという。「単純に基地局1つ1つの価格を比較してもあまり意味はない。一定の周波数の中でどれだけのサービスができるかでエンドユーザーへのコストも決まってくるので、周波数利用効率の高さは重要なポイントだ」。

 Qualcommとしては、EV-DO Rev.AやHSPA(HSDPAとHSUPA)のモデムがリーズナブルな価格でPCに標準搭載されるようになる方が、いつでもどこでもネットワークが使えるという点で利があると考えている。実際、モバイルWiMAXのセクタースループット(※1)はEV-DO Rev.AやHSDPAといった最新の3G技術より低いという試算結果が出ており(3月10日の記事参照)、3Gでのデータ通信の方がモバイルWiMAXよりユーザーの利便性は高い。「モバイルWiMAXへの対抗措置としては、3Gのモデムをいかに速くPCに内蔵してもらえるか、というところに手を尽くして取り組む」と山田氏は話した。

セクタースループット:1つの基地局でカバーできる単位エリア(セクター)、または単位周波数帯域におけるデータ転送速度


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