おサイフケータイによる決済サービスを使い始めるまでには、越えなくてはいけないハードルが3つある。1つめはアプリを端末にダウンロードすること。次に初期設定をすること。そして3つ目が「おサイフケータイ機能を使ってみよう」と思うこと、使いたくなる動機があることだ。
1つ目のハードルは非常に高いが、アプリがプリセットされていればクリアされる。2つ目のハードルは、初期設定が面倒で、ユーザーが登録しなくてはならない情報が多かったり、アプリの容量が大きすぎたり、操作が難しかったりすると高くなる。しかしこれは、サービスプロバイダの努力次第でかなり低くできるものだ(1月30日の記事参照)。
そして3つ目のハードルは、おサイフケータイを使うことが「楽しい」「便利」「おトク」だということをユーザーにアピールしたり、身の回りにおサイフケータイユーザーが増えることによってクリアできる。ドコモがおサイフケータイのEdyを初期設定したユーザーに対して、100円分のEdyギフトを付けるキャンペーンを行っているのはこの一環といえる。Edyの普及啓蒙に努めるフリーマガジン「EdyNAVI」も、同様の狙いがあると言っていい(8月24日の記事参照)。
3キャリア全てのおサイフケータイにプリインストールされ、1つ目のハードルがクリアされているEdyは、8月末におサイフケータイでの利用者(=Edyアプリの初期設定を済ませた数)が400万を越えたと発表した。これは3キャリア合計の、しかも累積での数字である。一方、JR東日本が運営するモバイルSuicaの会員数は、7月現在10万人だ(7月13日の記事参照)。おサイフケータイのキラーアプリと期待されていたモバイルSuicaでさえ、“アプリがプリインストールされていない”“初期設定が煩雑”“利用できるクレジットカードが限定されている”という条件が重なれば、普及は難しい。
ちなみに、ドコモのおサイフケータイ契約数は、7月末で1480万台。同時期の統計ではないこともあって直接の比較はできないが、モバイルEdy、モバイルSuicaの利用者数と照らし合わせると、“おサイフケータイ機能の利用者”は、おサイフケータイユーザーの中でもまだまだ少ないことが分かるはずだ。おサイフケータイアプリを普及させるために、「プリインストール」の効果が極めて大きいことは、神尾寿氏も指摘している(8月25日の記事参照)。
プリペイド型電子マネーであればハードルは3つだが、クレジットカード決済ではもう一つ「対応カードを作る/持っている」というハードルが加わる。
学生などで、クレジットカードそのものを持っていないおサイフケータイユーザーは多いだろう。またクレジットカードユーザーでも、メインカードが利用したいサービスに対応していなくては、おサイフケータイでクレジットを利用したいと思う動機は小さくなる。おサイフケータイによる決済に対応しているクレジットカードがまだまだ少ない現状では、使いたいカードが使いたいサービスに対応しているケースはごく稀だ。
EdyやSuicaといったプリペイド型電子マネーには「誰にでも使える」という大きなメリットがある。またSuicaはJR東日本のエリア内が中心だが、Edyなら全国で使える。調査結果を見ても、「電子マネーと聞いて、何を思いつくか?」という問いでも1位を取るなど、最も認知度が高い(2005年12月27日の記事参照)。3キャリアがこれまでおサイフケータイにEdyをプリインストールしていた理由は、まさにそこにあり、KDDIも、これまで端末にEdyをプリセットしていた理由について「せっかくおサイフケータイを買っても、何かアプリが入っていないと使いにくい。エントリーとして、利用への導線を作るために、Edyは向いている」(広報部)とEdyの効用を認めている。
本当におサイフケータイを、そしてQUICPayの普及を目指すならば、Edyでまずはおサイフケータイ決済に慣れてもらい、それからQUICPayの利用を勧めるほうが効果的ではないだろうか。「QUICPayだけ」ではなく「QUICPay+Edy」をプリインストールすればいいことである。
最後に、Edyを運営するビットワレットのコメントを引用しよう。「これまではおサイフケータイで使える決済サービスが事実上Edyだけだったこともあり、各キャリアの厚意でEdyをプリインストールしていただいていた。しかし今はおサイフケータイのサービスも増え、“Edyだけ”ではなくなった。これまでがむしろイレギュラーだったということなのだろうと考えている」(ビットワレット広報部)
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