公共交通事業者が、地域社会の安心のために何かできないか――PiTaPaグーパスに聞く Interview(2/3 ページ)

» 2006年08月31日 22時31分 公開
[神尾寿,ITmedia]

あんしんグーパスの課題

 しかし、あんしんグーパスのベースとなるPiTaPaグーパスは、そもそもセキュリティ利用が前提で開発されたシステムではない。そのため今後の改善点も残されている。

 まず通過情報を取得する駅は事前設定する必要があり、子ども用PiTaPaカード1枚につき「最寄り駅」と「目的駅」の2つしか設定できない。

 「あんしんグーパスは(最寄り駅の)周辺情報配信サービスであるPiTaPaグーパスを、安心・安全分野に応用したもので、通学での利用を想定しています。利用開始前に最寄り駅と目的駅を2つ登録していただき、その駅を使用した時に保護者様にメールが配信される仕組みです」(河野氏)

 だが、これは裏を返すと、通学先の「学校の最寄り駅」と通塾先の「塾の最寄り駅」の両方から通過情報を得ることはできないことになる。また休日に通学以外で電車を使う場合も、自宅最寄り駅からの通過情報は得られるが、出場する駅が登録駅以外では通過情報が得られない仕組みになっている。

 「お客様のニーズからすると、学校と塾で別々の駅を使用されるケースは多いのですが、(あんしんグーパスのベースである)PiTaPaグーパスが通勤利用駅での周辺情報をメールで受け取るというものなので、今のところこの要望には応えられていません。今後の改善点の1つです。もう1つ、我々が改善点だと考えているのが、携帯電話への登録ユーザー数です。現在のあんしんグーパスでは、1台の携帯電話にお子様1人分のPiTaPaカードの通過情報しかお届けできません。しかし、ご兄弟で電車通学をしているケースも当然考えられます。今のシステムですと、この場合は子ども1人につき(通過情報メール受信用の)携帯電話がそれぞれいるんですね」(河野氏)

 なお、以前紹介した立命館小学校のケースでは(6月7日の記事参照)、あんしんグーパスのシステムをさらに立命館小学校側がカスタマイズして使用している。そのため「1台の携帯電話に複数ユーザーからの通過情報メールを送る」ことは実現している。通過駅情報の取得を増やす改善も、順次行われる模様だ。

 「我々としても“月額315円だから、今のサービスレベルでいい”とはまったく考えていません。大きな課題である通過駅情報の取得数増大や、1台の携帯電話に複数ユーザーの登録を可能にする点を含めて、サービス改善は今後も継続して行っていきます」(河野氏)

今後、携帯電話のメール遅延は許されなくなっていく

 また、PiTaPaグーパス側以外の問題として、携帯電話メールの配信遅延があがっているという。

 「あんしんグーパスとしては、保護者の皆様に『安心感』を提供するという使命を感じています。しかし、メールを配信したあとに携帯電話キャリア側でメールの配信遅延が起きますと、これはどうにもならない」(河野氏)

 実際のサービスでも、利用者の問い合わせが最も多いのが「メールが届かない」部分であり、原因を突き詰めるとキャリア側に問題があるケースがほとんどだという。

 「例えばある特定のキャリアでは、メールの遅延・遅配や紛失があまりに多くてどうにもならない。そのため我々としては、そのキャリアをお使いのお客様には、メール遅延の状況についてご説明をして、別のキャリアへの変更をお勧めしています」(河野氏)

 サービス提供側が、メールの遅延を理由に特定のキャリアを名指しして、他への変更を推奨するというのは、やや乱暴に思えるかもしれない。しかし、あんしんグーパスのように「安心感の提供」をビジネスにする以上、これは当然だという。

 「キャリア側の問題でメールが届かない、遅延が頻発するというのでは、お客様に『安心』が提供できません。また我々のサービスについても、悪い口コミ効果が生まれてしまう。メール遅延を起こすキャリアについては、(キャリア側に)改善要求をし、すぐに改善されなければお客様にしっかりと情報の告知をしていきます」(河野氏)

 一方、メールが届かないことは、キャリア側の問題だけでなく、ユーザーの使い方に起因することもある。

 「これはドコモの場合ですが、圏外などでメールが受信できず、その後に『センター問い合わせ』をしていないので届いたメールに気づかないというケースは多くありますね。こちらはWebサイトのQ&Aなどでご説明をしています」(河野氏)

 河野氏は、携帯電話のメールは今後さらに“安心のため”に使われるようになり、メールの遅延・遅配は許されなくなると強調する。

 「例えばあんしんグーパスの例で言うと、お子さんが学校の最寄り駅を通過して、その通過情報メールを受信した時間から(電車の乗車時間を)計算して、保護者が自宅最寄り駅に迎えに行くといった使い方がすでにされているんですね。しかし、肝心の携帯電話メールがきちんと届かなかったら、保護者は心配しますし、お迎えの行き違いでリスクが生じる可能性も考えられます。もはや携帯電話メールの遅延・遅配は許されないんです。その点をキャリアの皆さんにご理解いただき、協力してもらいたいですね」(河野氏)

 あんしんグーパスだけではない。例えば、様々なセキュリティサービスで、安全・安心情報の連絡に携帯電話メールが使われている。メールの遅延・遅配・紛失を起こさないことはもちろん、圏外からの復帰後の即時リトライ(再配信)や、緊急連絡メールが届かなかった時に別の保護者に自動転送される仕組みなど、キャリアとセキュリティサービス事業者側でできる改善は多くありそうだ。

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