nico.に期待したい“隠されたシンプル市場”の開拓 神尾寿の時事日想:

» 2006年06月29日 22時01分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 ウィルコムのW-SIM対応機が続々と登場している。6月23日、ウィルコムとバンダイが「キッズケータイpapipo!」を7月14日に発売すると発表(6月23日の記事参照)。6月27日にはネットインデックス製の「nico.」が、7月13日から発売されると発表した(6月27日の記事参照)。また、すでに発売中のW-ZERO3も、メモリー容量を増大するマイナーモデルチェンジが施された(6月6日の記事参照)

 2005年7月に発表されたW-SIM(2005年7月7日の記事参照)は、PHSの通信部分をコアモジュール化して端末開発の低コスト化と容易化を図り、少ない投資とリスクで端末ラインナップの拡大と多様化を行うのが狙いだ。しかしこれまでW-ZERO3とデータ通信端末のDD以外は、限定販売されたTTがあったのみで、W-SIMのメリットが感じられる状況にはなっていなかった。今回、papipo!とnico.が投入されたことで、W-SIMファミリーにもようやく広がりが見え始めた。

“通話とメールだけ”は、特殊な少数派ではない

 今回投入されたW-SIM端末の中で、筆者が注目しているのはnico.である。音声通話とメール機能に特化し、シンプルかつセンスよくまとめた端末は、海外市場には多く見られるが、日本市場にはほとんどない。これは多くのユーザーが「とりあえず多機能な端末」を好む傾向にあることと、携帯電話キャリアが様々なサービスを売るためにシンプルな端末を好まないところに理由がある。マスマーケット向けの端末・サービス開発を前提にし、ARPU拡大を至上命題とするキャリアにとって、シンプル路線はあまり積極的になれない分野である。

 携帯電話の数ある機能の中で、「日常的に使うのは通話とメールだけ」というユーザーは決して特殊な少数派ではない。それは携帯電話の有料コンテンツ利用率が6割程度に止まっていることからも分かる。iモードやEZwebを契約していても、実際はメールくらいしか使っていないという人は、男女・年齢層を問わず少なくないはずだ。

 しかし問題もある。通話とメールしか使っていないという潜在的な利用者層は一定量存在するが、彼らが“積極的にシンプルな端末”を求めるかは別問題だということだ。日本ではインセンティブ制度の存在により、海外に比べて高性能・多機能端末が安く買えるため、「どうせ買うなら、とりあえず多機能なものを」という購買パターンになりやすい。

 シンプル路線の端末にも問題がある。現在、携帯電話キャリアが投入するシンプル路線の端末は、「ツーカーS」(2004年10月18日の記事参照)やau「簡単ケータイS」(2005年9月7日の記事参照)、「FOMAらくらくフォン」(2005年8月9日の記事参照)のように、リテラシーが極端に低いユーザーをターゲットにしたものばかりだ。「携帯電話が“使えない”人向けのシンプル」しかないのが現状である。

 潜在的に存在する「通話とメールしか使わない」層は、別にリテラシーが低いわけではない。合理的に、自分に必要なサービス以外を“使わない”だけだ。彼らに訴求するには、ニーズにあった使いこなしができて、なおかつセンスのいい「こだわりのあるシンプル」である。

ダブルホルダー向けから「シンプル」の開拓を

 翻ってnico.を見てみると、ポップ路線からシンプルに切り込んでおり、エクステリアとインテリア(UI)のデザインにこだわっている(6月27日の記事参照)。サイズがコンパクトで軽量、バッテリー持続時間が長く、PHSベースなので通話時の音質がいい点などもポイントになるだろう。

 また、ウィルコム独自の「音声定額」(2005年3月15日の記事参照)は、nico.のコンセプトを後押しするだろう。携帯電話よりも維持費が安く、ウィルコム同士なら定額という使い方ができる点は、ダブルホルダー(2台持ち)するために買うのにも適している。

 ウィルコムには是非、nico.を筆頭に、こだわりのあるシンプルな端末を増やしていってもらいたいと思う。日本市場の状況と日本ユーザーの特性を鑑みれば、実際のニーズが通話とメール中心でも、最初から「シンプル端末のみ」を持つというのは一般化しにくい。だが、ダブルホルダーが前提ならば可能性がある。nico.はコンシューマー向けであるが、今後はビジネスユーザーや、ホーム/オフィスユース向けといった展開も考えられるはずだ。

 携帯電話が高機能化・進化する一方で、シンプル市場がどこまで顕在化するか。ウィルコムの取り組みを期待しつつ見守りたい。

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