連載
Interview:
“ウィルコムだけ”を積み上げて堅調な成長を目指す──ウィルコム (1/2)
「音声定額」の導入以来コンスタントに純増数を伸ばし、加入者を獲得しているウィルコム。同社の成長戦略を経営企画本部長の喜久川政樹氏に聞いた。
今年の大きな話題は携帯電話キャリア間で実施される番号ポータビリティ制度(MNP)であるが、一方で昨年から躍進が続くウィルコムも見逃せない存在だ。同社は10年以上かけて成熟させたきたPHSのインフラ網を活用し、携帯電話/PHSで初となる「音声定額」を導入(2005年3月15日の記事参照)。その後も、フルブラウザ端末や、フルキーボードを搭載したW-SIM端末「W-ZERO3」の積極的な投入など、携帯電話キャリアの先を行くビジネスを展開している。契約者数も順調に増えており、最近では純増シェアでボーダフォンを上回ることも多い。
ウィルコムは現在の好調と今後の成長について、どのような考えを持っているのか。ウィルコム執行役員 経営企画本部長の喜久川政樹氏に聞く。
ウィルコムの執行役員経営企画本部長、喜久川政樹氏「マイクロマーケットの連鎖」という発想
ウィルコムは昨年を通じて堅実に成長したキャリアだ。単月あたりの純増数の規模で見れば、ドコモやauには及ばない。しかし、毎月の純増数の変化が少なく、コンスタントに伸びているのが特徴だ(6月7日の記事参照)。
「まず成長率の点では、我々が思い描いていた再成長のシナリオに沿っている。セグメント別には不十分なところもありますが、マクロ的には計画通りと言えます。また我々は『堅調な成長』と言うのですけれど、毎月の純増数で大きく上下するのではなく、毎月5〜9万(の純増)を積み上げていく。携帯電話の販売では月ごとのバラツキが大きいのですが、ウィルコムはそれがない。これが『堅調な成長』で重要なところです」(喜久川氏)
携帯電話の純増数は新製品の発表や季節ごとのイベント、またキャリアの好不調に左右されて数万から数十万の格差が生じる。一方で、ウィルコムは本格的な再成長が始まって以降、純増数の伸びに大きな上下動がなかった。なぜ、ウィルコムは「純増数のバラツキ」から無縁でいられるのだろうか。

喜久川氏はそのポイントが、独自性の強いサービスにあると説明する。「ウィルコムの強みはサービスの独自性なんですね。過去10年間かけて(PHSで)マイクロセルのネットワークを作ってきて、技術的な特性、インフラの特性が携帯電話とはまったく違う。この『携帯電話との違い』から、サービスを組み立ててきた。例えば、ノートPCまで含めた定額制を実現する『Air H"』、ハンドセット型の『フルブラウザー端末』とそこでの定額制、さらにウィルコム同士ならば通話料無料になる『音声定額』などは、携帯電話にはない我々独自のサービスです」
携帯電話と競争するのではなく、“携帯電話とは違う”技術やインフラの特性を生かして、差別化されたサービスを投入する。ここが堅調な成長を実現する要因だという。
一方で、これらの独自サービスは、現在の携帯電話ビジネスからすると主流ではない。だが、それも折り込み済みだと喜久川氏は笑う。「反応するマーケットは(サービスごとに)それぞれ違うのですけれど、そこでは『ウィルコム以外の選択肢はあり得ない』と言っていただけている。私はマイクロセルならぬマイクロマーケットと呼んでいるのですが、こういったウィルコムしか選択肢になり得ない(個別には小さな)マーケットを多く作り、積み重ねることでビジネスを構築しています。これが堅調な成長を支えていると考えています」
携帯電話のビジネスは、非常に大きな市場をターゲットにしている。端末機能/サービスともに数百万台規模のニーズと市場を視野に、商品企画や端末/サービス開発を行う。数十万台から100万台程度のニーズやマーケットは顧みられない場合も少なくない。
ウィルコムの発想はこの逆で、携帯電話ビジネスの主流から離れた小さなマーケットを独自のサービスで取り込み、個別の“マイクロマーケットでのNo.1”になるというものだ。マイクロマーケットの連鎖で規模を獲得する。この手法では、マスマーケット狙いでヒットを飛ばしたときのような“爆発的な成長”は難しいが、個別マーケットでは唯一の選択肢になるため、安定的な成長が可能になる。
「(主流を狙う)一般的な商品を提供することで、(DDIポケット時代に)我々は一度失敗していますからね。初期のPHSでは簡易型携帯電話のイメージがつきまとってダメになってしまい、そこから(今のウィルコム)が作り直されました。携帯電話キャリアのビジネスというのはプロダクトアウトと言いますか、お客様に『これを使って』という感じでマス(マーケット的な仕様)でやりますよね。この世界では我々は絶対に勝てない。同じネットワーク構成で同じビジネスをやれば、規模が大きいキャリアが必ず勝つというのが通信ビジネスの特徴です」と喜久川氏は言う。
「そこで我々は独自の仕組みを使った商品を、その特性が生かせるプロダクトと分かりやすいサービスにして、それを求めるマイクロマーケットに提供している。マスマーケットのブームやトレンドに乗って一気にシェアを広げるというのは、我々にとってはもう終わっている(手法な)のですよ。そして市場環境も、よりユーザーのニーズにカスタマイズされたマイクロマーケット型の方向に向かっていくと思います」(同氏)
この15年で携帯電話・PHS市場は爆発的に拡大・成長した。しかし、これだけ市場が拡大し、技術が進歩しても、すべてのユーザーが少しずつ不満を持っているのではないだろうか。それは携帯電話ビジネスが、右肩上がりで拡大するマスマーケットのニーズを取り込むことを基本にしてきたからだ。一方でウィルコムは、数量的な“市場の成熟”を前提に、1つ1つは小規模なマーケットのユーザーに「納得して使ってもらえるサービスを作っていく」ことを意識しているという。
[神尾寿,ITmedia]
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