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神尾寿の時事日想:

Appleが携帯電話を作ったら……

ソフトバンクとApple Computerが共同でiPod内蔵携帯電話を開発中というニュースが流れた。もしAppleが携帯電話を作ったら……。Macはもちろん、Appleが提供する各種サービスとの連携に加え、携帯電話の世界にも新しい風が吹くのではないかと期待せずにはいられない。
2006年05月15日 11時03分 更新

 5月12日、日本経済新聞社をはじめ複数の報道が、ソフトバンクがApple Computerと共同で、音楽プレーヤーのiPodを内蔵した携帯電話を開発中だと報じた(5月13日の記事参照)。その記事によると、開発・販売の主体はApple Computerであり、新たなソフトバンクの携帯電話サービス向けとして提供され、両ブランドが併記される模様だという。もちろん、iTunesとシームレスに連携する。

 周知のとおり、iTunesと連携する携帯電話としては、昨年Motorolaが「ROKR」(2005年9月8日の記事参照)を発売しているが、こちらはブランド、そしてユーザーインタフェースと端末デザインの面でApple Computerとは“別物”になっている。しかし今回、日本経済新聞社をはじめとする一連の報道が真実であれば、それは「Apple Computer謹製」の携帯電話ということになる。この違いは大きい。

iPodは「音楽」だけではない

 筆者は初代から歴代のiPodを使い続け、現在は第5世代iPodを常用している。さらに、iPodをフル活用したいがために、メインのコンピュータ環境をWindowsからMacintoshに“Switch”した経緯がある。

 なぜ、筆者がそれほどまでにiPodを高評価しているか。

 それはiPodが、モバイル機器として完成されており、美しいからだ。音楽という明確なコンセプトと、それを取り巻く派生機能の優秀さ。ユーティリティとユーザビリティの高度なバランス、使いやすく美しいユーザーインタフェース、シンプルで恒常性のあるデザイン。さらにDockという、汎用性のある接続インタフェースによる周辺機器エコシステムの構築。iPodは、現時点で最も優れたモバイル機器であり、成功したプロダクトだと思っている。

 特に筆者が評価しているのが、iPodが「音楽を聴く」だけの端末ではない点だ。MacOS環境では、スケジュール管理ソフト「iCal」、写真ライブラリソフト「iPhoto」、「アドレス」などとシームレスに連携し、さらに周辺ソフトを使えば様々な機能拡張が可能だ。iPodは、あくまで音楽プレーヤーに軸足を置きながらも、汎用的なモバイル端末という一面がある。

 筆者は現在、iCalでスケジュール管理をし、外出先ではiPodでスケジュールを確認している。iPodではスケジュール入力ができないが、予定をパッと「確認する」という点では、クリックホイールを使った操作性は抜群に使いやすい。最近ではWindows環境でもOutlookとの連携機能が実装されたので、iPodユーザーは試してみる価値がある。

 もし、Apple Computer製のiPodケータイが実現すれば、当然ながらそれはiTunesとシームレスに連携する。音楽コア層から一般ユーザーまで広がる、iPod/iTunesのユーザー層の厚さを鑑みれば、「音楽」の面だけ見てもiPodケータイのインパクトは大きい。

 だが、iPodの魅力は音楽だけではない。iPodケータイでは、スケジュールをはじめとする各種機能のMac/PCシンクロや、アップル製品ならではの"使いやすさ"も、強い武器になるのではないかと思う。

iPodケータイで期待したい「.mac」連携

 さらに通信機能が内蔵されるという点では、Apple Computerの統合型ネットサービス「.mac」連携にも期待できる。

 .Macは主にMacOS向けのサービスのため、Windowsユーザーには馴染みが薄いかもしれないが、使ってみると驚くほど使いやすいネットサービスだ。IMAP4を使ったメールサービスを筆頭に、iCalと連携したスケジュール機能、インスタントメッセンジャー、グループサービス、ホームページ/ブログサービス、写真のバックアップ/共有サービス、インターネットストレージ、インターネットストレージやバックアップ機能などが用意されている。

 .macの特徴を一言でいえば、「シームレス」ということに尽きる。手元にあるMacOS上のソフトウェアと、インターネットの先にある.macの各種サービスがきれいに統合されている。

 例えば、iCalを使ったスケジュール連携では、複数の自分のMacや、家族や同僚のiCalと、.macを通じて予定表のシンクロや共有をすることが簡単にできる。Windows向けのグループウェアでも同様の機能はあるが、それらと比べ、操作がシンプルで分かりやすい。

 現在、.macは複数のMacintosh上で情報共有・シンクロをする場合に効力を発揮するが、仮にiPodケータイが登場し、それが.macに対応するとともに、Windows向けの.mac対応ソフトウェアも充実すれば、Mac/PCとケータイの連携が.mac経由でシームレスかつ自動的に行えるようになる。Apple Computerの製品・サービスにおける使いやすさ、UIの洗練性を考えると、.macと携帯電話の連携には期待ができる。

“洗練されたシンプル”を携帯電話に

 もうひとつ、Apple Computer製ならば、やはりデザインとUIの革新が注目になる。特に筆者が期待するのは、高機能化と高性能化に凝り固まった携帯電話端末に、洗練されたシンプルさという新たな風が吹くことだ。

 携帯電話は、電話機が進化した延長線上のフォルムとUIに、様々な機能やデバイスを後付けしすぎた。使いやすさの一要素として、そういった連続性が必要だったことは確かだが、それが“シンプルで分かりやすい”操作性を損なっていた一面は否定できない。「最新モデルの全機能を把握し、日常的に使いこなしている」と断言できる人が、どれだけいるだろうか。携帯電話業界関係者でも、使いこなせていない人の方が大半ではないだろうか。

 だが、携帯電話メーカーとキャリアの人間が、洗練されたシンプルを形にすることは無理だ。発想の問題ではない。製品開発のプロセスと決断の仕組みが、UIの連続性とイノベーションの持続性を求めるからだ。

 おそらく同じ理由で、ポータブル音楽プレーヤーの世界で、ソニーはiPodのコンセプトとUIが作れなかった。ソニー開発陣の能力の問題ではなく、プロセスと決断の仕組みが、連続性と持続性を無視した革新、洗練されたシンプルの具現化を阻んだのだ。

 Apple Computerが本気で携帯電話を作ったら……。ブランド力に対する期待以上の、革新とパワーを携帯電話業界に送り込んでくれるかもしれない。ソフトバンクとの共同開発が事実かどうかはまだ分からないが、実現すれば携帯電話業界の成長にとって刺激になることは確かであり、非常に興味深い。今後の動向に注目していきたい。

[神尾寿,ITmedia]

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