おサイフケータイを積極導入したドラッグストアの雄が今思うことは――マツモトキヨシに聞くInterview: (2/2 ページ)

» 2006年05月12日 19時33分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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おサイフケータイへの期待は「販促費の軽減」

 ドラッグストア業界の競争が激化する中で、マツモトキヨシはなぜ、初期投資が伴うおサイフケータイなどFeliCa対応を行ったのだろうか。

 「電子マネーの広がりが今後予想される中で、どうせ導入するなら一番乗りがいいと思ったから。最初に30店舗ほどに実験導入したのですが、こちらでの利用率の伸びがよかったという理由もありました。

 全体の売り上げからすれば、Edyの占める(利用額の)割合は微々たるものなのですが、伸び率には期待できるものがあった。将来の普及に期待できる仕組みではないかと感じて、全店導入に踏み切りました」(館野氏)

 Edyを使うことで小売店側は手数料がかかる。だが、現金を使わないことによるメリットと、その将来的な可能性は、手数料負担を上回る魅力だったという。さらにマツモトキヨシが重要視したのは、ポイントなど会員向けサービスの部分だ。

 「現在、マツモトキヨシでは約800万人の現金ポイント会員の方がいらっしゃるのですが、EdyでFeliCaチップを使うのなら、おサイフケータイでは電子マネー決済と会員サービスを連携させようと考えました。現在、うちは約750店舗を持っているのですが、そこでの販促費はかなりの金額に上る。将来的に、おサイフケータイユーザー向けに販促ができるようになれば、この部分の軽減が期待できる」(館野氏)

 単なるキャッシュレス決済やポイントサービスならば、FeliCa型カードやクレジットカードでも実現可能であり、その方がサポートの手間も少なくて安上がりだ。それでも敢えておサイフケータイ対応にまで踏み切ったのは、ポイントアプリやメールサービスに、CRMやダイレクトマーケティングの可能性を見たからだという。アサノの事例でもそうであったように、おサイフケータイに対する販促費軽減の期待は、小売業共通のものといえそうだ。

おサイフケータイの効果には「まだ不満」

 しかし、マツモトキヨシのおサイフケータイに対する期待は、今のところ現実のものになってはいない。

 「正直なところ、おサイフケータイ利用会員の獲得については苦戦しています。(想定よりも)マツキヨポイントアプリの会員数が伸び悩んでいる。

 Edy利用者の状況を見れば、顧客単価は向上していますし、再来店率向上にも貢献している。以前から対応しているクレジットカードと比べて、利用率の伸びも高い。利便性向上、店舗サービスの一環としては、(Edyやおサイフケータイ対応を)入れてよかったと思っています。また、他の業界でのFeliCa決済採用が増える中で、ドラッグストアで一番乗りしたという意義もある。

 しかし我々の大きな目的は、(電子マネーの利用率向上だけでなく)マツキヨポイントアプリをダウンロードした会員を増やす、CRMの部分にある。これが達成されないことには、本来の目的だった『販売促進におサイフケータイを活用する』という段階に進めない。その点では現状に満足していません」(館野氏)

 だが、この状況にも改善の兆しが見え始めているという。それがマツキヨポイントアプリの複数キャリア展開だ。

 「マツキヨポイントアプリは当初、ドコモ端末向けだけでやっていたのですが、auのおサイフケータイが発売されたところ、『auでも使いたい』という要望が非常に多く寄せられた。これには驚きまして、あわててBREW版の開発をしました」(館野氏)

 マツモトキヨシは数あるドラッグストアの中でも、化粧品などビューティー関連に強いのが特徴だ。このあたりが「auのユーザー層と合っていた」(館野氏)と見ている。

会員目標10万人。キャリアやショップにはもっとサポートをお願いしたい

 マツモトキヨシではおサイフケータイのマツキヨポイントアプリ会員の目標を10万人に定めている。FeliCa対応の狙いを「販売促進への貢献」に持つ同社にとって、この数字は譲れないものだろう。

 「まずは3キャリア対応と、2006年以降はおサイフケータイの出荷台数そのものが増えるでしょうから、その効果による会員増加に期待しています」(館野氏)

 その上で、館野氏はおサイフケータイを販売する各キャリアに厳しい注文を突きつける。

 「各キャリアさんが持つ(ドコモショップなどの)販売店は3キャリアあわせて多くの数があるわけですが、ここを利用促進のために使わせてほしい。各キャリアショップ(のスタッフ)が、マツキヨポイントアプリも含めて、対面で(おサイフケータイ)アプリの導入をサポートしてくれるのが確実なんです。キャリアショップを使った利用促進キャンペーンも、もっと積極的にやってほしい。

 また逆に、マツモトキヨシの店頭に各キャリアの販売スタッフに来ていただき、そこで(ユーザーに)アプリの導入や使い方の支援をしてほしい。我々の店員がおサイフケータイ関連の技術サポートをするには、人数やスキルの部分で厳しいものがありますから」(館野氏)

 周知のとおり、ドコモは自身がイシュアとなるクレジット決済サービス「DCMX」においては、ドコモショップを利用促進や導入支援の窓口として使う。だが、おサイフケータイ対応をしたものの、利用促進やサポート体制での悩みは、導入事業者共通のものだ。「キャリアショップで、自分たちのサービスも利用促進やサポートしてほしい」というのは当然の希望だろう。

 順調に普及し、対応サービスも拡大するおサイフケータイだが、一般ユーザー層に対する利用促進では未だ多くの課題がある。マツモトキヨシをはじめとする先行導入事業者が持つ、「現状の悩みや不満」に対して、キャリアは真摯に応えていく必要があるだろう。おサイフケータイを一過性のブームにしないためにも、利用促進に対するキャリアと導入事業者の不断の努力が重要である。

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