DCMXは、EdyともSuicaとも共存する――NTTドコモ夏野氏に聞く(後編) Interview(2/3 ページ)

» 2006年05月09日 13時25分 公開
[神尾寿,ITmedia]

DCMXは電子マネーと共存する

 DCMX miniは携帯電話キャリアの特性を生かして、クレジット決済サービスの裾野を大きく広げる。“ドコモならでは”の強みで、DCMXビジネスとiDの推進を図るものだ。

 一方で、その上に位置づけられるDCMXは、プラスティックカードも発行し、一般的なクレジットカードに近い機能を持っている。他のクレジットカード会社のサービスと直接的な競合をする可能性が高い。ここでのドコモならではの違い、優位性はどこにあるのだろうか。

 「DCMXの特徴は、プラスティックカードとおサイフケータイで『同一の機能が提供される』という部分にあります。その端緒が限度額で、カードの限度額とおサイフケータイで使える限度額が同じです」(夏野氏)

 JCBのQUICPayなど他のクレジット決済サービスでは、おサイフケータイでの決済上現金額が決まっている。しかし、DCMXはクレジットカードの限度額が、そのままおサイフケータイ利用時の限度額にもなるため、高額商品でも利用者のニーズやスタイルに応じて、どちらを使うか選べる。

 「ユーザーが実際に利用するとき、上限金額で(カードとおサイフケータイを)使い分けるというのは利便性の点で疑問があります。むしろ、使い分けは利用シーンで行われるはず。だったら、カードとおサイフケータイは同じ機能の方がいい。

 しかしですね、(ドコモとしては)DCMXで既存のクレジットカード業界のパイを取りに行こうなんて気はさらさらない。なにしろ、クレジットカードビジネスには約45兆円の未開拓領域があるのですから、(DCMX miniだけでなく)DCMXもそれを開拓するのが狙いです」(夏野氏)

 と、夏野氏はDCMXはあくまで「未開の新市場を狙うもの」と断言する。だが、JCBやUFJニコスなども、古くからのクレジットカード会社として、ドコモが目をつけた未開拓市場に魅力を感じて、QUICPayやスマートプラスを推進している。当面は、加盟店開拓と顧客獲得で競争状態が続きそうだ。

 一方、おサイフケータイを使ったプリペイド型の電子マネーとの関係は、今後どうなるのだろうか。

 「プリペイド(の電子マネー)とポストペイの違いでは、店舗のポイント連動などの機能が考えられます。(マツモトキヨシのポイントサービスのような)個別のポイントプログラムをやろうとすると、ポストペイでクレジットカードのスキームに乗せるDCMXよりも、Edyなどプリペイド型の電子マネーの方が向いている。僕はもともと、プリペイドの電子マネーとポストペイのクレジット決済は、両方にニーズがあると考えていた。

 あと、DCMXの事業で言えば電子マネーはいいライバルですけれど、僕は『ケータイ屋』でもあるから。おサイフケータイの発展、ドコモの立場では、両方あった方がいい。共存はウェルカムですよ。DCMXを出したあとも、(ドコモは)SuicaやEdyを応援していきます」(夏野氏)

DCMX実現への道のりと、三井住友カードとの関係

 iD、そしてDCMXでクレジットカード業界に新風を送り込もうとするドコモだが、ここまでの道のりが平坦だったわけではない。資本提携し、iDとDCMXの推進で手を組んだ三井住友カードのように「よき理解者」に恵まれた一方で、業界の旧弊との摩擦が少なからずあったという。

 「我々も当初はクレジットカード各社と連携して、この分野を盛り上げていこうと考えていました。しかし、あるクレジットカード会社の役員から、『村には掟があるのをご存じか』と、こう言われちゃったんですよ(苦笑)。しかも我々がiDを発表するまでは、(携帯電話+クレジットの)可能性も『所詮はケータイですからね』と軽く見られていた」

 クレジットカード業界には歴史があり、古参のクレジットカード会社には「日本市場を作ってきた」という自負があるのは当然だ。その点で、新たな技術とビジネスモデル、そして携帯電話業界のスピード感を持ってクレジットカード業界に乗り込もうとするドコモが、警戒感や反発を持たれるのは仕方のないことなのかもしれない。

 「しかしですね、確かに『村の掟』は一面の正しさがあって、クレジット決済サービスを実現するにはINFOX(編注:カード決済を行う端末のこと)の設置などが必須で、これはノウハウがない我々がゼロから積み上げられるものではない。

 そこで、どこか銀行系のカード会社の力を借りなければならないと考えまして、三井住友カードに直談判させていただいた。そして資本提携という形で、iD、そしてDCMXを一緒に実現していけることになったのです」(夏野氏)

 一部のクレジットカード会社との摩擦があり、一面では“村の掟”に挑戦する形になりながらも、三井住友カードの力を得て村社会のネットワークをうまく利用する。DCMX実現までの過程で、ドコモはかなりしたたかだ。

 「我々は他のクレジットカード会社と競争するつもりはない。繰り返しになりますが、この業界を大きくするためにiDやDCMXを始めたんです。特にiDはブランドとしてオープンにやっていくので、多くのクレジットカード会社にご理解いただき、是非ともiDを採用してほしい」(夏野氏)

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