おサイフケータイの狙いは何か、ようやく全貌が分かるだろう――NTTドコモ夏野氏に聞く(前編)Interview(3/3 ページ)

» 2006年05月08日 11時33分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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 「(携帯電話事業とクレジット決済事業で)特に重要なのがコスト構造が似ていることです。具体的には、どちらも『最大のコストが顧客獲得コストである』という点です。

 もし、ドコモが携帯電話事業で獲得したお客様に、ドコモのクレジット決済サービスをお使いいただければどうなるか。1回の顧客獲得コスト負担で、2つの契約が取れることになります。つまり、携帯電話事業とクレジット決済事業は、コスト構造の部分だけ見てもシナジー効果が大きい」(夏野氏)

 携帯電話ビジネスの基本は、「本人性確認」と「顧客口座の確保・維持」にある。この2点を持って、継続的にユーザーにサービスを提供し続ける関係性の構築がビジネスの柱だ。この構造はクレジット決済ビジネスも同様であり、「携帯電話キャリアにはクレジット決済事業の素養がある」(夏野氏)という主張は一理ある。

 「例えばですね、DCMX miniでは簡単な申し込みで満12歳以上のユーザーに1ヶ月1万円までの与信をします。なぜ、こんなことが可能かというと、我々が携帯電話キャリアだからです。DCMX miniをやるためにドコモ自身がイシュアになったのです」(夏野氏)

 DCMX miniはクレジットカード事業者が「採算に合わない」と口を揃える“1万円以下の領域だけ”しか利用対象にならない。クレジットカード事業単独の顧客獲得コストや、利用請求などの維持コストを鑑みれば、まったくの赤字になるビジネスだ。だが、携帯電話事業の“ついで”として、携帯電話ビジネスの顧客獲得コストや維持コストに重畳する形ならば、DCMX miniの顧客獲得・維持コストは限りなくゼロに近くなる。一方で、DCMX miniの簡易性は顧客数の大幅な増大が見込めるメリットの部分として残る。DCMX miniは「携帯電話キャリアにしかできない」コスト構造を持つクレジット決済サービスと言えるだろう。

 「DCMX miniはクレジット決済の壁をどれだけ低くするかという部分に着目して、携帯電話サービスの延長線上に(クレジット決済を)位置づけました。

 実はiモードサービスの世界では、コンテンツ向けの代金代行徴収の仕組みを拡張して、昨年から物販向けに『ケータイ払いサービス』を導入しました。この限度額が1万円。DCMX miniは社内システムも含めて、この仕組みを(リアル決済に)延長したものと位置づけています。そう考えると、我々はまったく新しいチャレンジをしているわけではない。だから(ドコモとして)無理がない。

 一方で、DCMX miniは限度額1万円までですから、その先のニーズに対応しなければならない。ここは限度額20万円からスタートし、100万円を超える与信まで行うDCMXで対応します」(夏野氏)

 ドコモはDCMXmini / DCMXの実現に当たり、「携帯電話事業と金融事業の融合を意識した」(夏野氏)という。その狙いは見事に実現し、ドコモはクレジットカード業界にとって、まったく新しいビジネスモデルとコスト構造を持つプレーヤーになった。

 また、ドコモ自身にとっても、おサイフケータイとDCMXが「キャリアの直接のビジネス」になったことで、同社の強力な販売力がフル活用できる体制が整った。しかも、おサイフケータイとDCMXをセットで普及させることは、顧客獲得コストの削減にも繋がる。

 携帯電話事業とクレジットカード事業の融合は、計り知れないパワーと影響力を持っている。

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