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連載

神尾寿の時事日想:

「ソフトバンクの名前いらない」を真剣に受け止めるべき

携帯電話ビジネスで成功するには「ブランドの力」は非常に重要だ。秋に控えるMNPまで時間がないソフトバンクは、慎重なブランド戦略をとらなくてはならない。
2006年04月24日 11時52分 更新

 インフォプラントはC-NEWSで「ソフトバンクのケータイ事業参入」をテーマにアンケート調査を行い、結果を発表した(4月21日の記事参照)。詳しくはニュース記事に譲るが、その中で相変わらずユーザーの支持が得られなかったのが、ソフトバンクのブランド名である。インフォプラントの調査結果では、新ブランド名として最適なものとして「『ソフトバンク』またはその一部を含むもの」は8%に留まり、「『ソフトバンク』の名前いらない派が多数」とインフォプラントがコメントする結果になった。

 ITmediaモバイルが3月に行ったアンケートの結果でも、ソフトバンク系のブランド名はアレルギーに近い反応を受けている。ユーザーの声は「新ブランドに“BB・Softbank・Yahoo!”を入れないで!」という方向性を示しており、記事では「この3つはNGワード」と評される有様だ(3月30日の記事参照)

 ソフトバンクはYahoo!Japanの創設やYahoo!BBによるブロードバンドサービスの価格破壊などで、日本のインターネットに一定の貢献もしてきたはずである。それでもなお、ユーザーから不信感を持たれるのは、Yahoo!BB開始初期のユーザーサポート体制の不備と軽視、Yahoo!BBその他で起きた一部の強引かつ品位に欠ける顧客獲得活動、そして顧客情報流出事件などを通じて、通信サービスに不可欠な「ブランドへの信頼」を育み損ねてきたからだ。

 携帯電話ビジネスの成功では「ブランド力」の占める位置が大きい。例えばNTTドコモが長年、多くのユーザーに支持されてきたのは、彼らが1990年代初期から文字通り“日本の携帯電話業界を切り開いた”からだ。1994年の端末お買い上げ制(編注:携帯電話をレンタルから端末販売に切り替えたこと、2005年10月7日の記事参照)の導入に始まり、ドコモは常に新たなサービスやビジネスモデルを切り開いてきた。ドコモショップやコールセンターなどカスタマーサポート部門のレベルが高いのも、サポート体制の構築と育成に時間がかけられているためだ。また、FOMA導入初期に躓いた3Gのエリアと端末・サービス品質の問題も、急速に改善してきている。

 一方、ドコモのライバルとして“強力な第2位”の地位を不動のものにしているauは、3G移行時の優位性を背景に、ドコモよりも一歩先を行くコンテンツサービスや端末デザインを用いて、分かりやすく清新なブランドイメージを構築した。2001年から始まったこの取り組みは、2002年から次第に形になり始め、約5年をかけてドコモと「2強」と評されるほどの力を得た。KDDIが総力を挙げて取り組んでも、これだけの時間がかかったのである。

“ソフトバンク”では目前のMNPに間に合わない

 ソフトバンクのブランド力が十分に成熟し、多くのユーザーに支持されるものであれば、携帯電話業界にそのまま持ち込んでも問題ないだろう。むしろ、いろいろとトラブルが多かったボーダフォンのイメージを払拭し、よい方向に“底上げ”することができる。

 だが、現実がそうではないことは、アンケート結果が示している。

 Yahoo!Japanやソフトバンクホークスなどブランド力を向上させる要因を持ちながらも、Yahoo!BBや日本テレコム買収後の強引な手法やトラブルと差し引きされ、ソフトバンク関連のブランドは未だに「信頼のブランド」になり得ていない。この状態で、すでに成熟したドコモやauと対峙しても勝ち目は薄いだろう。

 ソフトバンクにはさらに大きな課題がある。繰り返しになるが、MNPまで時間がないのだ。MNP導入のギリギリのタイミングまで勘案しても、約半年しかない。これだけ短期間に、ソフトバンク系もしくは新しいブランドを認知・浸透させ、他キャリアと互角の戦いをするのは不可能である。しかもソフトバンク側の課題は、ブランド問題だけではない。他キャリアより整備が遅れる3Gインフラ、ラインアップ数で劣る3G端末の拡充、競争力のある新サービスの投入、全国のブランドショップやコールセンターなどカスタマーサポート部門の立て直しなど、問題は山積している。新ブランド問題は早急かつ実効力重視で片を付けて、他の課題や問題の解決に急いで着手した方が賢明である。

無理をせず長期戦の布陣をすべき

 ソフトバンクによるボーダフォン日本法人買収は、最初の段階から黄信号であったが、今では赤信号がちらついている。限られた時間の中でソフトバンクがすべき事は、ボーダフォン日本法人が持つ能力を最大限に引き出すことを重視し、既存ユーザーの流出を最小限に抑えることだ。そのためにはブランド名でも柔軟な発想が必要である。

 また、ソフトバンクはYahoo!Japanなど“よいカード”も多く持っているが、強力な手札を切るには時間が不足している。今やるべきことは、ストレートフラッシュを狙うことではなく、ツーペアやスリーカードで小さな勝利を積み上げて、負けないことだ。ゆっくりと信頼とブランド力を培いながら、ソフトバンクならではの新たなサービスやビジネスを模索すればいい。

 多少の時間がかかってもいいではないか。ソフトバンクはすでに、既存キャリアなのだから。

[神尾寿,ITmedia]

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