連載
Interview:
PiTaPaはなぜ“ポストペイ方式”なのか――スルッとKANSAIに聞く(前編) (2/3)
投資コスト削減から生まれた「ポストペイ方式」
1999年、スルッとKANSAI協議会内にICカードシステムの研究会が設立された。むろん、ここで議論されたのは、当時JR東日本が取り組んでいた非接触IC「FeliCa」を用いた乗車券システムの対応だ。
しかし、ここで大きな問題が生じる。それが各社局の経営状況と磁気式プリペイドカードシステムとの二重投資である。
「JR東日本がICカード乗車券(後のSuica)を発表した1999年当時というのは、スルッとKANSAIでは1996年に磁気式プリペイドカードシステムを導入してから3年後です。我々としては、『ICカード方式はやらないといけない』という意識は持っていたのですが、投資時期の問題がありました。
しかし、磁気式を導入してから3年しか経っていませんでしたから、ここで(同様のサービスとして)ICカードをやろうと言い出したら、各社局が『もう、やってられへんわ』という事になる。特に私鉄・バス会社は厳しい経営状況の中で、(磁気式のために)設備をすべて入れ替えて、多額の設備投資をしています。当時はバブル崩壊後の一番厳しい時期で、そうでなくても年2〜3%の利用客減少が起きていた。その中で無理して磁気式に投資していただいる中で、ICカードシステムの検討を始めたのです」(松田氏)
ここがJR東日本と事情が異なる部分だ。JR東日本は1980年代から非接触ICを使った自動改札機の研究に着手していたが、1990年代初めの自動改札機導入には間に合わず、「雌伏の10年」を経た後、2001年に自動改札機の大規模更新にあわせてFeliCa(ICカードシステム)導入に踏み切った(2005年11月16日の記事参照)。磁気式カードシステム導入から10年という、更新のタイミングありきのICカードシステム導入計画だったのだ。
しかし、スルッとKANSAIは約10年と言われる自動改札機の更新タイミングより早く、ICカードシステム導入をしたいと考えた。そこで重視されたのが、「投資コスト削減」と「サービス改善」の様々な工夫だ。
「まず投資コストの面を鑑みて、JR東日本(Suica)や香港のオクトパス(2005年10月26日の記事参照)を研究しました。そこで分かったのは、『我々はSuica方式は入れられない』ということです。Suicaでは自動改札機はもちろんのこと、券売機、定期券発行機、駅窓口などすべてを(非接触IC対応に)入れ替える『フルスペック方式』を採用しています。これでは大手で5年以上、中小では10年以上の投資期間が必要になる。
一方、オクトパスでは当時すでに『オートチャージ』や『ポストペイ』の仕組みがありました。この口座引き落とし/ポストペイ方式を採用すれば、券売機や定期券発行機の(改修に伴う)投資コストがいらない。また、定期券や割引サービスへの対応も容易になることに気付きました。つまり、ポストペイ方式を採用することで“投資コストは改札機の改修だけ”で済み、“様々な割引サービスの対応もしやすくなる”わけです」(松田氏)
PiTaPaの特徴である「ポストペイ方式のみ」という仕組みは、磁気式カード導入からわずかな期間しか経っていない中で、各私鉄・バス会社の投資コストを抑えて、いち早く非接触ICシステムの導入を実現するための“発想の転換”だったのだ。
「ポストペイ方式での導入で試算したところ、(非接触IC対応が)改札機だけならば、投資コストは1/5ですむことがわかりました。これであれば各社の厳しい経営状況でも、何とか導入できる見込みが立ちました」(松田氏)
もちろん、事前申し込みが必要なポストペイ方式を面倒に感じる利用者もいるだろうが、そちらは平行して導入が進む「磁気式プリペイドカードで対応していく。そちら(磁気式)にも投資したばかりで、あくまで併存が前提になっていますから」(松田氏)。
[神尾寿,ITmedia]
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