日本市場向けにWindows Automotiveの発想を 神尾寿の時事日想

» 2006年03月22日 20時57分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 3月20日、マイクロソフトは携帯・PDA向けOSであるWindows Mobileについての記者向け説明会を行った(3月20日の記事参照)。マイクロソフトがWindows Mobileのグローバル展開に本気であることは事実であり、日本の携帯電話メーカーは採用を考える時期にきている。

 特に重要なのは、海外市場進出時のメリットだ。コンシューマー向けに特異的な機能進化をしてきた日本市場と異なり、海外市場での機能進化はビジネス向けの機能が中心であり、まさに日本でも“これから起こる”領域だ。そしてそれが、Windows MobileやSymbianOS上で実現するのは間違いない。日本市場が成熟サイクルに入る以上、日本の携帯電話メーカーは海外市場で成功できなければ生き残れない。その流れの中で、Windows Mobileの採用は選択肢の1つになる。

 現在、携帯電話向けの汎用OSとしては、Windows MobileとSymbianOS、Linuxが代表的であるが、デファクトスタンダードを決める鍵は「開発コスト」と「開発リソース」、そして「PCインターネット/サービスとの融合」になるだろう。これらの中でWindows Mobileが有利なのが、世界的な開発環境の充実というリソースの部分と、PCインターネットやサービスの分野で強力なプレイヤーであるという点だ。日本メーカーの活路が海外市場、特に北米と新興市場にある点を鑑みれば、これらは無視できないポイントになる。

日本メーカーにはWindows Automotive方式が理想的

 しかしその一方で、日本メーカーにとって今のWindows Mobileが最良の選択肢かというと、筆者は必ずしもそうは思わない。Windows MobileはPC的な水平分業、コストパフォーマンス重視のコンセプトで作られており、日本メーカーのようにハードウェアとソフトウェアの一体的な作り込みで付加価値をつけるモデルには合わないからだ。

 誤解を恐れずにいえば、今のWindows Mobileでは日本メーカーのお家芸である「モノ作り」の総合的な強さで勝負がしにくい。また、端末機能やUIの部分で、目の肥えた日本のユーザー向けの品質を実現する上で、足を引っ張る要因になる可能性がある。

 では、どうするか。その1つの答えが、マイクロソフトのカーナビゲーション向けOS「Windows Automotive」にあると考えている。

 Windows AutomotiveはWindows CEファミリーに連なる組み込みOSの1つだが、マイクロソフト製OSとしては唯一、「標準UI、標準的な機能パッケージを持たない」OSである。カーネルや多くのAPIはCEファミリーとして共通化されており、マイクロソフトの他の製品との高い親和性・互換性を持つ。しかし、カーナビゲーションとして必要な機能ソフトウェア、UIは共通仕様の上でメーカー自らが作り込まなければならない。ここでメーカーの技術力やノウハウの差、競争が生まれてくる。一方で、いちどWindows Automotiveに対応すれば、そのプラットフォームをいかした開発コスト・開発期間の短縮、ラインアップ拡大が容易になり、「汎用OSのメリット」が享受できる。Windows Automotiveは、マイクロソフト製OS採用のメリットを得ながら、日本メーカーが得意とするモノ作りの力が減殺されない仕組みになっているのだ。

 将来を見越せば、日本メーカーはマイクロソフト製のOS採用を真剣に考えなければならなくなるだろう。しかし、現時点のWindows Mobile採用は、リスクやデメリットがあると筆者は思う。

 ユーザーの求める品質レベルが高く、各キャリアの独自サービスへの対応も求められる。日本市場の特性と日本メーカーの適性を考えると、「日本向け携帯電話OS」はWindows Automotiveに近いコンセプトの方が適しているだろう(2004年12月8日の記事参照)。マイクロソフトの柔軟な対応に期待したいところである。

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