「ドコモの本丸」に攻勢強めるau神尾寿の時事日想

» 2006年03月08日 09時37分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 3月6日、KDDIは法人顧客のニーズに対応した京セラ製端末「B01K」(1x)と三洋電機製端末「E02SA」(WIN)をを発表した(3月6日の記事参照)。B01Kは3月下旬、E02SAは7月の発売を予定している。これはauが従来得意としていたエンターテイメント路線の端末コンセプトではなく、ビジネス市場向けにフォーカスした製品だ。

 本コラムでも何度か述べたが、ドコモのシェアを支える「本丸」は、ビジネスコンシューマーと法人市場からなる「仕事でケータイを使う」ユーザー層だ。特に地方における長期契約のビジネスコンシューマーや大口契約を持つ法人などは、“仕事で使うならドコモ”という傾向が強い。ドコモに対するカスタマーロイヤリティが高く、同社にとって最も貴重な市場になっている。

 これまでのauは、この「ドコモの本丸」の様子をうかがいながらも、正面からの衝突を避けてきた。コンシューマー向けのデザインや音楽サービスなどを充実させて若年層や女性を中心に高感度なユーザーを巧みに取り込むことで、「ドコモとは違う」イメージでシェアを伸ばして実績を作る。その一方で、ビジネス市場には慎重かつ堅実に食い込んでいった。

春商戦から変わったau

 だが、それもどうやら終わりのようだ。auは今、ドコモの本丸に本格攻勢をかけようとしている。

 その兆候は今年の春商戦モデルにも見られた。賢明な読者ならばすでに気づいていると思うが、今年の春商戦モデルは「色が違う」のだ。

 同社のこれまでのカラーリング戦略を振り返ると、春商戦は有彩色が中心で、黒・白・シルバーなど平凡な色が使われることは少なかった。特に黒は、auがあまりラインナップしてこなかったカラーだ。しかし、今年の春商戦モデルに限れば、黒を筆頭に無難な色のモデルが多いことに気づく。

 これまでauのデザイン戦略については、地方の販売代理店を中心に「ビジネスパーソンに訴求しにくい」という声が多く聞かれていた。しかし、auのブランド戦略、ドコモとの差別化の狙いから、あえてコンシューマー向けデザインが重視されていたのだ。これが春商戦モデルで大きく変わった。明らかに20代後半から40代までのビジネスコンシューマーを意識している。春商戦モデルが値下がりするMNP直前の夏には、これらの端末はドコモの本丸に攻め入る先兵の役割を果たすだろう。

リアルな感覚で作られた法人向け端末

 今回、発表された「B01K」と「E02SA」は、ずばり法人向けに投げられた直球だ。

 特にB01Kでロングバッテリーライフを重視した点がポイントだと思う。これまでの法人向け端末は、無線LAN内蔵やメッセージング機能の強化など、ホワイトカラー向けの機能強化が中心だった。だが、このような高度なサービスを使いこなせるのは一部の先進的な大企業であり、大半の法人ユーザーやビジネスコンシューマーには無用の長物だ。それよりも、以前のコラムで書いたように、通話とメールを長時間にわたり運用できる方が実用的かつ重要だ。B01Kは外勤のビジネスパーソンや宅配業者などの業務用端末として、リアルなニーズをしっかりと捉えている。

 一方、E02SAは他社も力を注ぐ無線LAN搭載の高機能な法人向け端末だが、内線ソリューションとして大企業向けの「OFFICE WISE」だけでなく、中小企業向けの「OFFICE FREEDOM」を新たに用意してきた点に注目したい(3月6日の記事参照)。これによりフルレンジの法人顧客にリーチできるようになっている。

 B01KとE02SAを見ると、KDDIは法人向け端末が「苦手だった」のではなく、「あえて作らなかった」のだということがわかる。両機は法人市場のニーズをリアルに捉え、入念にコンセプトが練られた端末であり、価格によっては、ドコモに少なからぬ打撃を与えそうだ。

ドコモの本丸に鏨(たがね)を打ち込む

 KDDIはこれまでauのブランド戦略と商品企画の手綱をバランスよく取ってきており、今後、MNPに向けてビジネス市場への攻勢をさらに強めるだろう。端末メーカーとしてシャープを取り込んだことも(2005年12月21日の記事参照)、ビジネスコンシューマー市場を獲得する1つの手段である。

 そして、現在の「ドコモの本丸」は、かつてほど強固ではなくなってきている。auが打ち込むたがねは、ドコモにとって無視できないものになるだろう。

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