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神尾寿の時事日想:

モバイルSuica、開始後1カ月にて

モバイルSuicaが始まって約1カ月が経過した。「VIEWカードしか使えない」などの問題点が指摘されつつも会員数の伸びは順調。また感心したのが、機種変更時の分かりやすさだ。
2006年02月24日 11時24分 更新

 首都圏で1月28日からスタートしたモバイルSuicaが好調だ。サービス開始から2週間弱の2月10日の段階で、モバイルSuica会員数が2万人を突破したというニュースが報じられたが(2月10日の記事参照)、その後も会員数は順調に伸びているようだ。先週お会いしたあるJR関係者の話によると、すでに会員数は6万人を超えているという。既報の通り、現在のモバイルSuicaは利用に際してのハードルが高く、登録作業なども面倒だ(1月28日の記事参照)。それでも開始後1カ月未満でこの伸びというのは、ユーザーの潜在ニーズがいかに高かったかが分かる。

 ユーザーの不満が集まっている「VIEWカードしか使えない」という点も、JR東日本にとっては短期的なメリットになっている。これまでのVIEWカードは「大人の休日倶楽部」カードが象徴するように、会員の平均年齢が高めだった。しかし、モバイルSuicaのような携帯電話の最新サービスを積極的に利用するのは10代後半から30代前半が中心。モバイルSuicaと従来のVIEWカード利用者層は必ずしも合致しない。現在のモバイルSuicaの伸びは、VIEWカードの新規会員獲得と平均年齢の引き下げに貢献している可能性が高いだろう。実際、筆者周辺にも「モバイルSuicaを使うため」VIEWカードに新規加入した知人が多く存在する。

 モバイルSuicaの潜在ニーズの高さと、多くのユーザーに使ってもらうという点では、「VIEWカード利用者のみ」という制限は早い段階で外した方がいい。しかし、JR東日本はモバイルSuica対応の初期投資を回収する必要がある。モバイルSuicaの普及がVIEWカードの新規会員を増やす今の"ビジネス的なうまみ"は手放しがたいだろう。JR東日本がVIEWカードを持たない潜在ユーザーの声とビジネス的な判断のどこで折り合いをつけるか、今後の注目である。

機種変更対応は優秀なモバイルSuica

 さて、筆者はモバイルSuica開始後1カ月に、機種変更機能を試してみた。この1カ月弱、W32SでモバイルSuicaを日常的に利用していたのだが、LISMOのテストをする関係でW41CAを買い増ししたからだ。蛇足だが、筆者はドコモのおサイフケータイに地方交通やクレジット決済のICアプリを複数導入しているため、容量の大きいモバイルSuicaはau端末でのみテストしている。

 結論から言えば、モバイルSuicaの機種変更はあっけないほど簡単だった。以前、モバイルSuicaは導入前の設定が面倒と不満を述べたが、機種変更のサポートについては優秀である。

 まず、機種変更前の端末でモバイルSuicaアプリを起動し、[会員メニュー]−[携帯電話の機種変更]−[機種変更をする]を選ぶ。すると会員情報がサーバーに保存され、機種変更前の端末にあるモバイルSuicaが利用できなくなる。その後、機種変更後の端末にモバイルSuicaアプリをインストール。最初のアプリ起動時に既に登録済みのメールアドレスとSuicaパスワードを入力すると、会員情報と機種変更手続きで保存したデータが自動的に設定される仕組みだ。この作業での手数料はかからない。

ay_mc01.jpgay_mc02.jpgay_mc03.jpg モバイルSuicaの機種変更前の手続き。この処理でSuicaバリューなどの保存が行われる
ay_mc04.jpgay_mc05.jpgay_mc06.jpg 新しい端末でモバイルSuicaを導入後、最初のセットアップで登録済みのメールアドレスとパスワードを入力。すると自動的に機種変更処理に入る。設定済みの会員情報のほか、Suicaバリューの残金などが引き継がれる

 おサイフケータイの機種変更ははっきり言って面倒であり、憂鬱な作業である。将来的な理想は、電話帳や写真のようにキャリアショップでICアプリを移行してくれるか、利用中のICアプリ情報をサーバーで保存して1回のパスワード入力だけで新端末に移行してくれる仕組みだと思っている。しかし、すぐにそれが実現できないのならば、各ICアプリの機種変更機能を使いやすくするしかない。その点で、モバイルSuicaは十分に合格点に達している。

波及効果に今後も期待

 モバイルSuicaは、まだサービスが始まったばかりである。ユーザーの期待が大きく、その裏返しの不満があるのは当然のことだ。JR東日本がユーザーの声にきちんと対応していけば、その潜在ニーズの高さからも普及は確実だろう。

 また、おサイフケータイ関連ビジネスの視座からすると、今からモバイルSuicaの波及効果を考えておいた方がいいだろう。

 まず、モバイルSuicaはカード型よりもチャージが容易なため、駅周辺での電子マネー利用が活性化する可能性が高い。特に今後オートチャージ機能が実装されれば(2005年12月21日の記事参照)、Suica電子マネーの平均利用額は上昇するだろう。これは駅周辺ビジネスでの電子マネー利用範囲の拡大を考える上で重要なことだ。

 さらに、モバイルSuicaは日常利用のサービスのため、ユーザーのおサイフケータイ利用意欲を向上させる効果が大きい。現時点でのユーザー数の伸びを鑑みると、首都圏でモバイルSuicaがおサイフケータイ利用促進の火付け役になるのは確実だ。特に「VIEWカード利用前提」というハードルが取り払われた時が、普及の第2ステップになる。そのタイミングを見計らいながら、駅を軸にして利用率が向上するおサイフケータイユーザーのニーズを取り込む戦略的な展開が必要になるだろう。

 鳴り物入りでスタートしたモバイルSuicaだが、その動向に注目すべきはこれからである。

[神尾寿,ITmedia]

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