ノートPCが「3G inside」になる日神尾寿の時事日想

» 2006年02月21日 12時27分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 eWEEKによると、IntelとGSMを推進する業界団体GSM Associationが、ノートPCがもっと簡単に高度なGSMネットワークに接続できるよう協力する意向を示したという(2月16日の記事参照)。この取り組みが実現すれば、ノートPCにはSIMカードスロットが用意され、Wi-Fiだけでなく、自動的にGSM、GPRS、EDGE、HSDPAネットワークにも接続できるようになるようだ。

 IntelのCentrinoに代表されるとおり、ノートPCがワイヤレス通信機能を内包することはPC業界が熱心に取り組んできた課題である。IrDAなどから始まり、現在は多くのPCがWi-Fiを内蔵するようになったが、今後、より広いエリアの携帯電話系ネットワークがサポートされるのは、ユーザーのニーズを鑑みても当然だろう。料金プランの課題はあるが、HSDPAなど3Gの進化と歩調が合えば、かなり現実的なサービスとして3G内蔵が実現していく可能性が高い。

ノートPCはモバイルブロードバンド+3G

 しかし、3Gでデータ伝送効率が向上しているとはいっても、巨大な電話機市場とノートPC向けのサービスで限られた電波資源を分け合うことには限界がある。この傾向は携帯電話市場のマルチメディア化が進む日本市場で顕著であるが、海外でも3G投資回収のためにキャリア主導で携帯電話向けサービスの高度化・ARPU向上を進める動きが一部で見え始めており、こういった地域では日本と同様の課題が生じるだろう。カバレッジエリアの点でノートPCへの3G内蔵は大きな流れになりそうだが、それはWi-Fiなど他の無線ネットワークと補完関係で進むだろう。

 その中で最近特に注目されているのが、モバイルブロードバンド向けの新たな無線ネットワークの台頭だ。この分野はモバイルWiMAXや802.20などが代表的であり、今後、チップベンダー、メーカー、キャリアなどがそれぞれの立場で商用化を目指していく。ノートPC向けのワイヤレス通信環境は、将来的にWi-Fi、新方式のモバイルブロードバンド、そして3Gの多層構造になり、それらがシームレスな補完関係を持つようになる。

 実際、先週KDDIが行ったウルトラ3Gショーケース(2月16日の記事参照)でも、モバイルWiMAXと3GのEV-DOのシームレス接続が積極的にアピールされていた。将来的なノートPCの無線サービス需要の高まりを考えれば、KDDIの取り組みは今後のトレンドに合致しているといえるだろう。

 これまで日本の携帯電話キャリアは「ノートPC向け」を電話機市場ほど重要視してこなかった。しかし、日本市場は小型軽量のモバイルノートPCの受容性が高いので、ノートPC向けの安価で使いやすい通信サービスの潜在需要は大きい。特に法人市場では、社員の生産性向上が重視される一方で、個人情報保護法の施行により、ノートPCからの情報漏洩リスクを軽減する「サーバー管理型」のモバイルソリューションが求められている。ノートPC向けの通信サービスは今後、高い成長率が期待できるだろう。

 ノートPCが3Gを内蔵することは、モバイルノートPCのニーズを底上げするだけでなく、キャリアのインフラ投資や周辺ビジネスにも影響を及ぼす。今後、注目しておく必要がある分野の1つと言えるだろう。

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