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連載
2006/01/27 18:17 更新

神尾寿の時事日想:
新たなUIとコンセプトを提案していた「ソニーのカーナビ」

他社製カーナビとは一線を画す、独自路線のソニー「XYZ」。「PC連携」「トランスポータブル」というコンセプトに加え、筆者が注目していたのが独自のUI「ジェスチャーコマンド」だ。

 ソニーは1月26日に開いた2005年度第3四半期の決算発表会(1月26日の記事参照)で、カーナビの国内生産・販売から一時撤退すると発表した。これは「再び、世界のソニー」を目指す同社の改革プログラムの一環であり、他にもエンタテイメントロボットやプラズマテレビ、QUALIAなどが解体もしくは再編のための縮小ということになった(1月26日の記事参照)

 カーナビなど車載分野は、現行製品の生産・販売については今年度で終了するが、事業再構築のための一時縮小というスタンス。将来的には再参入を検討しているようだ。

異端で新市場を作ったソニーのXYZ

 筆者は昨年、ソニーのカーナビ主力モデル「XYZシリーズ」(2005年5月13日の記事参照)の開発者インタビューを行っており、今回の「国内車載市場からの一時撤退」の報に残念な気持ちを禁じ得ない。なぜなら、同シリーズが最近のソニー製品の中ではひときわ“ソニーらしい”ものだったからだ。

 ソニーのXYZシリーズは2004年に投入された新たなラインナップであり、自動車メーカー純正カーナビの成長に押される市販カーナビの中で、異色な存在だった。'04年当時から現在に至るまで、市販カーナビは2DIN一体型でハイエンドなAVN(Audio Visual Navigation)タイプが主流になっているが、XYZシリーズはあえて液晶・本体一体型のオンダッシュモデルを投入。着脱可能/PC連携という「トランスポータブル」コンセプトで、市販カーナビ市場に一石を投じた。

 ソニーのXYZはカーナビ業界のトレンドに逆らったわけだが、その結果は業界の予想を裏切るものだった。2004年の市販カーナビ市場は全体で前年比96.1%のマイナス成長。しかし、XYZ77が投入された15万円以上のオンダッシュナビ市場は105%の成長と拡大した。事実上、このセグメントにはXYZ77しかなく、同機が新たな市場を作ったといえる。また、XYZ77購入者の5割以上がカーナビとPCを連携させており、「PC連携」という使い方がユーザーに受け入れられることを証明したのだ。

 XYZシリーズは昨年、後継モデル「777シリーズ」を投入。クルマから着脱し、ホームPCと連携する「トランスポータブル」というコンセプトを進化させる一方で、デザインをさらにスタイリッシュに洗練させた。昨年、インタビューしたソニーeビークル事業本部の庵祥子氏は、「輸入高級車など、こだわりのあるクルマに乗るオーナーにも納得していただけるデザインを目指した」と話した。

ソニーのカーナビは、タッチパネル系UIのお手本

 もう1つ、筆者が注目したのがXYZ777のUIが極めて優れていた点だ。同機は市販カーナビでは一般的なタッチパネル方式だが、ファンクションボタンやフォントの見やすさ・美しさでは他を抜きんでている。使いやすさだけでなく、デザイン性が両立している点に好感が持てた。

 さらにソニーは、タッチパネルの操作に「ジェスチャーコマンド」を盛り込んだ。これは画面を指でなぞり、特定のシンボルを描くことでコマンドを与えるというものだ。例えば、地図を拡大するなら画面上を反時計回りに円をなぞる、縮小なら時計回りの円、自宅へ帰りたいなら屋根をイメージして「へ」の字を描けばいい。

 「タッチパネルは直感的な入力を実現しますが、UIデザインでの(ソニーの)強みを出したかった。そこで誕生したのが『ジェスチャーコマンド』です。ダイレクトに画面上に“なぞる”という操作はわかりやすく、しかも慣れれば素早い入力ができます」(ソニーeビークル事業本部の桐ヶ谷賢司氏)

 ジェスチャーコマンドはカーナビ操作からAV機能のコントロールまで多岐にわたり、慣れればメニュー画面を表示させなくても一通りの操作ができるようになっている。また複数の項目が表示された状態では、スクロールバーを「なぞる」ことでスムーズなスクロールができるなど芸が細かい。UIの反応速度もこだわりのポイントで、特にジェスチャーコマンドは物理的な動きをカーナビ操作につなげる「ダイレクト感を失わないように腐心した。ハードウェアとソフトウェアを連携させて、自然なフィーリングを実現するノウハウや技術は、UIデザインにおけるソニーの強みになる部分」(桐ヶ谷氏)

 筆者は純正/市販を問わず、多くのカーナビを操作してきたが、ソニーのXYZはタッチパネル系UIのお手本だと今でも思っている。特にタッチパネルを「なぞる」という操作方法は、ニンテンドーDSでも大々的に採用しており、これからモバイルやデジタル家電分野で広まりそうなUIだ。それをカーナビ分野でいち早く採用していたことは高く評価できる。

使いやすいUIのニーズはモバイルほど強い

 今さら言うまでもないが、携帯電話、クルマ、ポータブルゲーム機などのモバイル分野は、「使いやすいUI」の重要性が高く、それが他社との差別化やブランド力の源泉になる。モバイル分野の革新的なUIというと、アップルコンピューターの「iPod」が真っ先に思い浮かぶが、ソニーにもジョグダイヤルやジェスチャーコマンドなど、一貫したポリシーで育てれば強い競争力とシンボルになりそうな「新たなUIの種」は数多くあったし、今も残されている。

 ソニーにはカーナビ事業の再構築のあと、再び新たなコンセプトとUIを提案する立場でカーナビ市場に戻ってきてほしい。また、携帯電話事業を担当するソニーエリクソン、ポータブルゲーム機PSPを担うソニーコンピューターエンタテイメントにも、モバイル市場に他社とは違う新たなコンセプトやUIの製品を提案してほしいと思う。

[神尾寿,ITmedia]

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