たまには憶測でMobile Meを語ろう 神尾寿の時事日想:

» 2006年01月16日 13時27分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 1月13日、ロイターの外電で米Apple Computerが「Mobile Me」という商標登録をしたことが報じられた(1月13日の記事参照)。これにより、同社がiPod電話や独自のスマートフォンを投入するのではないか、という以前からの憶測に拍車がかかっている。

 筆者はアップルウォッチャーではない。だがiPodのヘビーユーザーでもあり、興味が尽きないのも事実だ。またアップルコンピュータはウィルコムのW-SIMフォーラムにも参加しており、モバイル市場にまったく無関心というワケではなさそうだ。

 今日の時事日想は筆者の憶測を交えながら、Mobile Meの可能性について考えてみる。

米国PC/ネット企業がフォーカスする「モバイル」の世界

 年始早々に本コラムでも触れたが(1月10日の記事参照)、今年のCESに関連してYahoo!とGoogleが相次いでモバイル向けサービスの強化を打ち出した。特にGoogleは先週末にもBlackBerry向けのサービス拡大や、携帯電話向けのパーソナライズホームページ対応の発表を行っている。また、これらネット企業に動きに先立ち、米Microsoftは「Windows Mobile 5.0」をスマートフォン市場に積極的に訴求している。1月4日では北米で人気のスマートフォンのひとつであるPalm社のTreoシリーズとして、初のWindows Mobile搭載モデル「700w」が発表された(1月5日の記事参照)

 スマートフォンを中心とする北米での携帯電話高機能化はビジネスニーズが牽引しており、コンシューマ主導で進化する日本市場とは様相が異なる。だが、その中で北米のPCやインターネットサービスのビッグプレーヤー達は、スマートフォンなど高機能型携帯電話の世界を“PCの次”の拡大領域として見るようになってきている。

Mobile Meはコンシューマ向け「スマートフォン」か

 これまでPCを軸としていたインターネットの世界が、モバイルへと広がっていく。そのうねりを、“革新”を社是とするAppleが見落とすとは考えにくい。一方で、ポータブル音楽プレーヤーとして大成功したiPodを多機能化し、モバイル分野のニーズすべてを吸収する戦略は、「シンプルであることの強さ」を熟知するAppleは取らないだろう。Appleが提唱するデジタルハブの一要素となる、何らかのモバイル端末の構想が“ある”と考える方が自然だ。

 だが、iPodや最近のMac製品の戦略を見れば分かるとおり、同社はコンシューマ市場を成長の足がかりにしている。すでに競合プレーヤーが増えているビジネス向けのスマートフォン市場に参入する可能性は低い。iPodで培ったブランドバリューを生かす意味でも、デザインやユーザビリティが洗練されたコンシューマ向けの「スマートフォンもしくはモバイルネット端末」として登場するシナリオが最も説得力がありそうだ。

ウィルコムや新規参入組の“追い風”になるか

 仮にMobile Meがコンシューマ向けモバイル端末だった場合、当然ながらそれは、iTunes Music Storeや.Macと融合し、「サービスと端末が高度に連携する」形になるだろう。日本ではドコモのiモードを筆頭に、このようなサービスと端末のパッケージ化をキャリアの主導で行ってきた。これがAppleという1メーカーによって実現することになる。

 日本の既存キャリアは、すでにコンテンツ/サービスプラットホームを構築し、コンシューマ向けに「サービスと端末の高度な連携」を実現している。しかし、海外キャリアは日本と違い、コンテンツ/サービスプラットホームの構築で立ち後れている。そこにAppleが、iTunesの成功を足がかりにし、洗練されたMobile Meで参入したとしたら、ブランド力の後押しもあり、成功は約束されたようなものだろう。

 日本市場でも“黒船”になる可能性がある。例えば、ウィルコムや新規参入キャリアのいずれかから、iTunesと.Macが利用できるスマートフォンとしてMobile Meが登場したらどうなるだろうか。

 ウィルコムや新規参入キャリアは、ドコモやauに匹敵する独自のコンテンツ/サービスプラットホームを構築するのが難しそうだが、Mobile Meがその不利を打ち消すことすら考えられる。日本の携帯電話市場がコンシューマ主導であることを鑑みれば、ビジネスユーザーに強いこれまでのスマートフォンよりも、Appleが独自のサービスとセットで作るモバイル端末の方が、市場に与える影響は大きいだろう。

 これらのシナリオは、あくまで筆者の憶測にすぎない。しかし、Appleのモバイル戦略が、注目すべきものであることは間違いないだろう。

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