「iDは、JCBとは競合しない」――NTTドコモ夏野剛氏 神尾寿の時事日想・特別編: (2/3 ページ)

» 2006年01月11日 18時35分 公開
[神尾寿,ITmedia]

ドコモのイシュア事業は「iDカード」という名にはならない

 ドコモのクレジット分野への取り組みとしては、ブランドとしてのiDの他に、自身がカード発行業務を行うイシュア事業への参入がある(2005年11月8日の記事参照)。iDは三井住友カードなど、カードを発行するイシュア会社と組んで展開するが、これとは別にドコモ自身がクレジットカードを発行することになるわけだ(カードという形状にはならない可能性が高いが)。この2つは同時期に発表されたが、「取り組みとしてはまったく別です。分けて考える必要がある」(夏野氏)という。

 「ドコモでは以前から提携クレジットカードを用意していましたが、おサイフケータイでクレジット事業の活性化を目指していくという立場もあり、もう一歩踏み込む形でこの分野に取り組みたいと考えています。それがドコモのイシュアビジネスです。ただし、このイシュアビジネスのターゲットはiDとは異なります。iDの狙いは日本国民全員と日本の店舗すべてです。一方、ドコモのイシュアビジネスのターゲットは、ドコモのお客様5000万人です」(夏野氏)

 ドコモのイシュアビジネスでは、ブランドとしてのiDは当然ながら採用する。しかし、イシュアのカードとしてiDという名前は使わない。「まだ申し上げられませんが、イシュアカードの名前はiDとはまったく別になります」(夏野氏)。

 すなわち、これがブランドとしてのオープン性を目指すiDと、ドコモユーザー向けのクレジットカードを目指すイシュアビジネスのスタンスの違いである。

 「ドコモのイシュアビジネスはiDを仕組みを使う三井住友VISAさんや、今後参入する他のカード会社と同じ立場になります。ドコモがイシュアビジネスをやるからといって、ブランドとしてのiDのオープン性は損なわれません」(夏野氏)

潜在市場は大きく、電子マネーとの競合はない

 CMなどを見ると分かるとおり、iDはユーザーの利用シーンにおいて「少額決済市場」をターゲットにしている。iDのブランドルールにはおサイフケータイによる1万円以下の決済はサインレスで利用できることが明記されており、名実共に「かざすだけ」で利用できる仕組みだ。これが個々の加盟店契約によって1万円以下でのサイン有無が決まる他のクレジットカードブランドとの大きな違いになっている。

 一方で、おサイフケータイでの少額決済市場では、これまでビットワレットの「Edy」など電子マネーが有望視されていた。iDは電子マネーと競合するのだろうか。

 「ユーザーや加盟店の立場から見れば、プリペイド(前払い)の電子マネーか、ポストペイ(後払い)のiDか、と迷われることはあるかもしれません。しかし、(iDが電子マネーを脅かすような)大きな競合はないと考えています。リテール(小売店)の視点に立つとこれは分かりやすくて、商機を逃さないという点で、圧倒的にポストペイであるiDは有利です。一方で、プリペイドは先にお金をいただいているわけですから、ポイントプログラムなどを作りやすい。(特性の違いにより)2つは両立すると思いますよ」(夏野氏)

 筆者が昨年、おサイフケータイ関連の取材をした時にも、プリペイドとポストペイのどちらを支持するか、で小売店の意見は分かれていた。

 昨年前半に取材した仙台のスーパーマーケット「アサノ」では、プリペイドのEdyの方が、「誰でも使える」「使いすぎの心配がない」という点が、お年寄りや主婦層に受け入れやすいと話していた。一方、ドコモ九州長崎支店の取材や、筆者が行った百貨店経営者のヒアリングでは、利用時にチャージ残額の心配がないクレジットサービスを求める声が大きかった。

 「そもそも少額決済分野は潜在市場が大きい。民間最終消費支出から車と住宅など高額支出を除いた市場は約300兆円。この中でクレジットカード利用率は8%しかない。一方で、アメリカはクレジットカードだけで24%もある。この違いは何か。『日本人は現金決済が好きだから』と言う人もいるけれど、そんなわけはない。日本人だって、現金なんか持ち歩きたくないに決まっていますよ。

 答えは簡単で、クレジットカードが使える場所をカード会社が広げてこなかったというだけ。特に少額決済市場です。アメリカはマクドナルドでだってクレジットカードが全店舗で使えるけれど、日本はどうですか。

 我々はおサイフケータイの電子マネーとiDによって、隠された少額決済市場を開拓していきたい。現在8%で24〜25兆円の市場が、倍になれば50兆円です。少額決済のキャッシュレス化は潜在市場が大きいのだから、これをおサイフケータイに載る電子マネーとクレジットカードの両方でやっていけばいいのです。ポテンシャルの大きい新市場を分け合う関係で、食い合いの世界だとは考えてないのです」(夏野氏)

次ページ:iDは第2のiモード

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.