激戦地、ゆえの「FeliCa / おサイフケータイ対応」──長崎県バス協会に聞く特集:FeliCa携帯、本格始動(2/4 ページ)

» 2005年12月26日 16時55分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 「特に路面電車とは価格面での競争が激しい。あちらは全線100円で乗れて、しかも観光名所や繁華街など市内主要部をほぼ網羅している。例えば朝の通勤時間では、(郊外からバスに乗ってきたお客様が)路面電車の始発駅で一斉に路面電車に乗り換える。市内のバス需要への影響は無視できません」(高崎氏)

 「特に朝の通勤利用では、定時運行という点で路面電車に分があります。バスにもバスレーンが存在しますが、場所が限られている。専用軌道を走る路面電車の方がより定時的に運行されていますから」(楠山氏)

 これらの外的環境により、公共交通利用が比較的多い長崎県であっても、バス事業者の利用客数は毎年4〜5%ずつ減少しているという。

バス事業者の利便性向上で乗客減少に歯止めをかける

 このような競争背景にあり、事業者同士の競合があっても「バスの利便性を向上することが急務」(中塚氏)になった。その第一弾として本土5社で紙の回数券を共通化し、異なるバス事業者での乗り継ぎでも支払いの不便がなくなるようにした。そして2002年1月に非接触IC「FeliCa」を使ったカード型の長崎スマートカードが誕生した。

 「今のところ長崎スマートカードによって利用客が増加するという段階まではきていませんが、利用率で6割を超えていますので、利便性は(お客様に)受け入れられていると考えています。

 一方、導入の大きなメリットとしては、各社の(事業者間)精算のコスト削減効果が上げられます。我々は磁気式プリペイドカードを採用せず、紙の回数券からFeliCa(の電子精算システム)に移行したという事情もあるのですが、以前と比べて管理費は大きく下がっています」(中塚氏)

 2002年当時は、FeliCaカードにしても普及初期の段階だが、山梨県の山梨交通などがFeliCaを導入しており、その利便性の高さや将来性に注目していたという。またバス事業の事情として、「磁気式ではなく、非接触IC型の場合だと、国土交通省から先端事業の取り組みとして補助金が受けやすかった」(高崎氏)という理由もあった。

 「他にも(FeliCaカードの)メリットとして、カードが繰り返し使えるという点があります。磁気式プリペイドカードは単価は安いですが、使い捨てなので長期的にカード原価がコストとしてかかる。一方、FeliCaカードは磁気式と比べると高価なのですが、お客様が使い続けてくれれば(カード1枚あたりの原価が)コスト負担が少なくてすむと考えました。環境にもいいですしね」(中塚氏)

 おサイフケータイ対応への取り組みは、昨年8月からスタートした。その背景には、FeliCaカード採用で表出した課題の解消があったという。

 「FeliCaカードの大きな課題として、残高や利用履歴が見られないというものがありました。(長崎スマートカード導入初期から)実際にお客様から『残額はいくらなのか』『運賃がいくら引かれたのか詳しく知りたい』といった問い合わせの声が多く、この対策が必要でした」(中塚氏)

 磁気式のプリペイドカードならば、パンチ穴で大まかな残額が確認できる。またバス乗車時と降車時にはリーダー/ライターでの残額表示もされるのだが、乗る前や降車後に残高と利用履歴を確認したいという声が多かったという。特に乗り越し精算が行われる定期券とプリペイドカードのハイブリッド型では、ユーザーが簡単に見られる利用履歴のニーズは大きかった。

 「当初はFeliCaカードの表面に残高を書き込む方式も検討したのですが、プリント方式だと専用の機械で書き込みに約1〜2分がかかる。これではバス車内での利用は現実的ではない。おサイフケータイならば、画面で残高や利用履歴を確認できますから、こういったニーズに対応できると考えました」(高崎氏)

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