誠

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連載
2005/12/02 11:52 更新

神尾寿の時事日想:
モバイルのセンスを持つ放送技術は検討する価値がある

クアルコムが北米市場で熱心に進めているモバイル向け放送「MediaFLO」は、1セグ、モバイル放送に続く第3の携帯電話向け放送だ。専用の周波数を持ち、携帯向けに最適化した技術を持つ点に、筆者は意義を見いだしている。

 mobidec 2005で11月30日、クアルコムジャパンの松本徹三会長が、米Qualcommの進める「MediaFLO」(2月9日の記事参照)についての講演を行った。講演内容およびMedia FLOの詳細についてはリポート記事に譲るが(12月1日の記事参照)、筆者はこの技術を日本でも真剣に検討する価値があると考えている。

 今年5月、筆者はクアルコムの松本会長にお会いして、Media FLOの詳細と日本でのビジネス戦略についてのヒアリングと意見交換を行った。その中で印象的だったのが、「ワンセグに対抗しようと考えているわけではありません。しかし携帯電話には携帯電話ならではのニーズや導入条件がある。固定テレビ向けのデジタル放送の一部を携帯電話向け(のワンセグ)に流用するのではなく、専用の技術と帯域を与えた方が(ビジネスとしての)発展性がある」という言葉だ。

クリップキャストの統合に期待

 Media FLOで筆者が特に注目しているのが、クリップキャスト機能(7月6日の記事参照)が統合されている点だ。本体内にコンテンツが蓄積されるクリップキャストは、リアルタイム放送と異なり、受信後は「いつでもどこでも」見られる。さらに視聴中の受信感度変化の影響を受けない。これはモバイル環境にとって重要なものだ。

 クリップキャストの仕組み自体は、現在auが「EZチャンネル」で導入しており、使い勝手のよさは体験できる。筆者もEZチャンネルの番組を毎日視聴している1人だ。しかし、携帯電話インフラを配信で使うEZキャストはデータ容量の制限が大きく、画質に大いに不満がある。特にビデオiPodを購入し、iTMSで購入した映像コンテンツをiPodで楽しめるようになると、そのクオリティの低さに我慢がならなくなった。詳しくは別の機会に譲るが、画面の小さいモバイル端末だからこそ、画質は大切なのだと実感している。

 Media FLOの場合、専用の帯域を使い、リアルタイム放送とクリップキャストで動的に帯域を変更できる。このためリアルタイム放送のニーズが減少する深夜・早朝の時間帯にクリップキャスト放送を集中的に行う事ができる。さらに放送インフラを使うため、十分な画質の映像コンテンツを配信する事ができるだろう。いわば、端末に直接コンテンツ配信するビデオ・ポッドキャストである。

モバイルに適したセンスと技術が重要

 ワンセグ放送の成功に向けた放送事業者や関係メーカーの意気込みと努力に、筆者は敬意を持っている。しかし、携帯電話を代表とするモバイルの世界は、固定テレビを前提とする従来の放送ビジネスとは、ユーザーのニーズや求められる技術要件が異なる。モバイルに適したセンスと技術が必要だ。Media FLOには、先述したリアルタイム放送とクリップキャストの統合や、受信レベルが落ちた時でも映像が途切れないようにする仕組みなど、注目すべき部分が数多い。ワンセグのサイマル放送にも前向きというのも、ユーザーから見た時にメリットが大きいだろう。

 クアルコムが北米市場のMedia FLO普及に非常に熱心なのも注目すべきポイントだ。日本独自技術でないことは、市場ボリュームメリットによる関連チップコストの低廉化が期待でき、日本の端末メーカーが北米進出する際にも有利に働く。

 また筆者は、携帯電話向けのデジタル放送は、クルマのリアエンタテイメント市場でも使われると考えている。携帯電話向けデジタル放送は、クルマ向けとしては映像クオリティがやや低いが、一方で移動中の受信しやすさに配慮されている。現在のクルマ向け地デジ機器は、固定テレビ向けの12セグの受信で対応しているが、すでに「受信感度が落ちると、映像と音声が完全にとぎれる」点が問題になっている。クルマの利用環境を考えると、今後のトレンドは携帯電話向けデジタル放送の利用、もしくは固定テレビ向けデジタル放送との併用だ。

 クルマも使うと想定すると、北米市場と同じモバイル向けデジタル放送の技術・方式を使う事は、さらに重要性を増してくる。言うまでもないが、日本の自動車産業にとって重要なのは、まず第一に北米市場だからだ。Media FLOがすべてとは言わないが、モバイル向けデジタル放送は、日本国内のみならず、北米など巨大な海外市場との連動をもっと考えるべきではないか。

 携帯電話とクルマの両方の市場を睨んで、モバイル向け放送の技術や在り方はもっと議論していく必要がある。モバイル環境におけるユーザーの使いやすさ、海外も視野に入れた市場効果の論議も、まだまだ足りないだろう。「ワンセグありき」で終始せず、市場全体が活性化する技術とビジネスモデルについて、積極的に検討していくべきだ。

[神尾寿,ITmedia]

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