ウィルコム参戦で競争激化が予想される車載通信市場神尾寿の時事日想

» 2005年11月24日 12時52分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 11月21日、本田技研工業が同社のテレマティクス「インターナビ・プレミアムクラブ」向けにウィルコムの専用データ通信カードを採用すると発表した。同日、ウィルコムは専用のデータ通信カードと料金プラン「カーナビ専用定額サービス for internavi Premium Club」を発表している(11月21日の記事参照)

 本田技研工業インターナビ推進室室長の今井武氏によると、今回ウィルコムが採用された背景には、ウィルコムの車載市場に対する積極的な姿勢があったようだ。

 「以前から(インターナビ向けに)定額制をやりたかったのですが、その際に既存のインターナビ端末が装備しているPCMCIAカードスロットを活用したかった。携帯電話キャリアも検討しましたが、ウィルコムは車載を前提にして、インターナビ専用の通信カードと料金プランを提案してくれたのです」(今井氏)

 今回のインターナビ向け端末で注目なのが、「クルマ向けにアンテナを改良していること」と「車載向けながら価格が安いこと」だ。

 特に後者は重要である。携帯電話キャリアが用意する車載通信モジュールの価格は3万円以上、高いものは6万円を超える。ウィルコムの端末価格8400円は“破格”のプライスタグであるからだ。さらに今回の端末が汎用的なPCMCIAカード型である点は、今後、他の純正や市販カーナビでの採用を狙う上で有利に働くだろう。

大手3メーカーは「モジュール型」を推進。成長に期待

 テレマティクスの発達に伴い、クルマ向けの通信モジュールは今後、成長が期待される分野である。フローティング/プローブカーをはじめとする渋滞関連サービスの高度化やセーフティ&セキュリティサービスなど、クルマ側の「モバイル通信」に対するニーズは高まっている。特にテレマティクスを推進・充実させている純正カーナビ市場ではこの傾向が顕著だ。

 すでにトヨタ自動車がテレマティクス「G-BOOK/G-BOOK ALPHA」と、レクサス向けの「G-LINK」でKDDI製の通信モジュールを採用している(4月14日の記事参照)。レクサスに関しては標準装備にしている。日産自動車は今のところBluetooth携帯電話との連携に注力しているが、来年初頭に神奈川県で予定されている社会実験「Sky Project」では通信モジュールを使用し、「通信料金込みのプランで(普及)価格帯や採算モデルを検討する」(日産自動車担当者)模様だ。今回、ホンダがウィルコムと手を組んだことで、国内自動車大手3メーカーが揃って「通信機能内蔵」の方向を向いたことになる。

 車載通信モジュール分野ではこれまで、トヨタやいすゞに採用実績を持つKDDIと、バスロケーションなどで採用例の多いNTTドコモが市場を分け合っていた。しかし、自動車メーカーは特定のキャリアのみと手を組む考えではなく、「あくまでサプライヤーの1つ。選択肢が増えることは望ましい。複数のキャリアが参入すれば、利用料金などでユーザーが(サービスを)選べるようになる」(自動車メーカー幹部)というスタンスだ。

 ウィルコムはPHSキャリアである点から、これまで自動車分野への進出が遅れていたが、今回の“ホンダ採用”は今後につながる実績になるだろう。将来的には新規参入キャリアも自動車分野に目を向けると思うが、その前に車載通信の選択肢が増えたことは、市場の活性化につながるだろう。今後の競争激化により、クルマが採用しやすいモジュールや料金プランが増えることに期待したい。

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