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2005/11/16 23:04 更新

神尾寿の時事日想(特別編):
モバイルSuicaに見るJR東日本の戦略 (1/2)

2006年1月28日より、おサイフケータイのキラーアプリと目される「モバイルSuica」がスタートする。JR東日本は、Suica戦略をこれからどう進めていくのか、モバイルSuicaの位置付けについて聞いていく。

 JR東日本のモバイルSuicaサービスについて、開始日が正式発表された(11月14日の記事参照)。モバイルSuicaは、首都圏における最大のモバイルFeliCaアプリケーションであり、おサイフケータイの普及を促進することは必至だ。サービス開始に注目している業界関係者も多いだろう。

 JR東日本にとっても、モバイルSuicaは重要なサービスだ。同社はSuicaシステムの導入によって、劇的な業務の改善と拡大を果たしているが、「携帯電話対応」はそれをさらに進める狙いがある(11月9日の記事参照)

 今日の時事日想は特別編として、東日本旅客鉄道IT事業本部ITビジネス部の倉橋宏影次長にインタビューを行い、Suica及びSuica電子マネーの戦略と、その中におけるモバイルSuicaの意義と将来性について聞いた。

Suica/Suica電子マネーが担う2つの効率化

 Suicaサービスは2001年11月にスタートした。「FeliCa/モバイルFeliCaの歴史を振り返る(後編)」でも記した通り、JR東日本は1980年代から非接触IC技術を使った自動改札機の研究に着手していたが、1990年代初めの自動改札機導入には間に合わず、「雌伏の10年」を経た登場だった。JR東日本にとって券売機や改札機の改善は経営に直結する重要課題であり、Suicaシステムの導入は同社の一大プロジェクトであった。

 「JR東日本では早くから磁気式の自動改札機を導入していました。しかしこれは常に接触しますから、データ不良が起きやすい、メンテナンスコストがかかるという問題がありました。Suicaは非接触ICなので、こういった問題を解決できます」(倉橋氏)

 むろん、SuicaはJR東日本にだけメリットがあったわけではない。ユーザーにとっても便利なシステムであり、それは数字にも表れている。2005年8月時点で、Suicaの発行枚数は1300万枚以上。改札機通過時の利用率も45%を超えているという。

 一方、Suica電子マネーは2004年3月にスタートしている。古くからのSuicaユーザーは、「電子マネー対応」でペンギンのイラスト入りの新式カードに交換されたことを覚えているだろう。

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現在のSuicaイオカード。ペンギンの下のロゴが電子マネーに対応している証

 「Suica電子マネーを導入した背景としては、駅中の店舗が多様化し、増えたということがあります。コンビニなどでの小銭のやりとりは時間がかかりますから、その部分を(Suica電子マネーで)ピッとやれば、お客様と店舗の両方で時間短縮のメリットが享受できます」(倉橋氏)

 Suica電子マネー導入前後の時期は、NEWDAYSをはじめ、駅中の店舗が増加した時期でもある。従来からあるキオスクは処理能力の高い、プロフェッショナル的な店員が支えているが、駅中の店舗の種類が増えれば、一般的なスキルのアルバイトがレジに入ることになる。Suica電子マネーは、そういった店舗の効率化に貢献したのだ。

専用改札が駅をコンパクトにする

 Suicaはもうひとつ、JR東日本にメリットをもたらそうとしている。新宿など一部の大規模駅で試験的に導入されている「Suica専用改札」だ。

 「Suica専用改札は駆動部が少ないですから、例えば雨の日にキップが内部で詰まるといったトラブルがありません。完全無人運用が可能なので、駅の改札をきめ細かく、より多く設置できるようになります」(倉橋氏)

 自動車分野のETCでも、将来的には無人運用が視野に入っており、その狙いは「スマートIC」と呼ばれるETC専用の小規模インターチェンジを増設し、利用者の利便性を向上するというものだ。Suica専用改札では大型駅の改札を増やすことで、駅周辺店舗への誘導や、改札の混雑緩和の効果が考えられる。

 一方、Suicaは東京など都市部の駅では顕著なメリットが考えられるが、地方郊外の駅でも導入効果があるのだろうか。

 「確かに利用客の少ない郊外の駅では、イニシャルに見合うだけの効果があるのかという議論はあります。しかしそういった駅でも、駅設備のコンパクト化というメリットがある。また、地方の中核都市ならば、券売機や自動改札機の数を減らせるというメリットがあるでしょう」(倉橋氏)

 Suicaは現在、首都圏中心で対応が進んでいるが、すでに仙台エリアの導入が進んでおり、新潟エリアの対応も始まる。2005年8月の段階で、JR東日本管轄の1699駅のうち577駅がSuicaに対応。Suica電子マネーも、Suica導入駅とその周辺で利用エリアを広げている。

 「JR東日本としては新潟エリアの対応を進めたら、(Suica対応は)一段落です。しかし2006年には首都圏私鉄やバス会社の利用する『パスネット』と相互乗り入れが始まりますから、そちらで利用可能エリアはさらに広がるでしょう」(倉橋氏)

Suica電子マネーの位置づけ

 現在、日本の少額決済市場において、電子マネーは注目の的になっている。特にこの分野では、Suica電子マネーとEdyがライバルとしてつばぜり合いを繰り広げているが、JR東日本にとって電子マネー分野はどれだけの重要性を持つのだろうか。

 「将来的には(JR東日本の)事業の柱になればいいと考えていますが、現在は鉄道が中心ですね。乗車券利用のためにチャージしたお金が、(“駅ナカ”で)電子マネーとしても使えるという位置づけです。しかし、すでに“街ナカ”でのSuica電子マネー対応も始まっていますから、今後は駅から離れた利用の仕方も広まっていくでしょう」(倉橋氏)

 Suica電子マネーの部分にフォーカスすると、モバイルSuicaの重要性は高い。なぜなら、カード式のSuicaの基本は「駅でチャージする」であり、電子マネーの利用シーンはどうしても駅が基点になる。しかし、モバイルSuicaは、クレジットカードや銀行口座から直接チャージをするため、入金を行う場所としての駅は必要ない。

 「現時点では(乗車券としての)Suicaと、Suica電子マネーはセットだと考えています。しかし、そうかと思えば、最近は街ナカでも使えるようになったので、主婦の方から『夫にもらったSuicaカードで電車に乗れるようになったらいいんだけど……』という要望をいただいたことがあります。いや、電車には最初から乗れるんですけどね(笑)。しかしこういう声があがるということは、SuicaもEdyのように電子マネーとして受け取られ始めたのかなあ、と感じています」(倉橋氏)

 このエピソードはモバイルSuica時代にはリアルになるかもしれない。おサイフケータイのビジネスは全国規模であり、ローソンやセガのようにSuica電子マネーを採用する全国規模の事業者が増えれば、Suica電子マネーは鉄道から離れて独り立ちを始める。特にビュースイカなどJR東日本のクレジットカード以外からのチャージが可能になれば、この傾向は加速するだろう。地方のユーザーから、「Suicaで電車に乗りたい」という“逆転現象”のような声が上がる可能性は十分に考えられる。

 「現在、Suica電子マネーの利用が首都圏中心なのは、単純に他地域ではSuicaカードが配布されないからです。しかしモバイルSuicaになれば、例えば九州でもアプリはダウンロード可能ですから、コンビニエンスストアの採用と連携して、九州でもSuicaが使われようになるというシナリオは考えられます。しかし、JR東日本管轄圏外でのSuica電子マネーの訴求を積極的にやるかと言われれば、そういう構想はありません。まずは足下であり、大票田の東京でSuica電子マネーを普及させます」(倉橋氏)

 JR東日本にとって、SuicaとSuica電子マネーはあくまで一体的なものであり、駅を基点に周辺エリアの「Suica電子マネー利用率を高めることに腐心する」(倉橋氏)という考えは変わらないという。

 「(JR東日本の関連会社が運営する)NEWDAYSのSuica電子マネーの平均利用率は10%ですが、田町店や神田店などでは平均25%になっている。利用率向上の余地はまだまだあります」(倉橋氏)

Suica電子マネー、今後の展開

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[神尾寿,ITmedia]

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