いよいよW-CDMAの解説に入ります。しかしその前に、まずは携帯電話の基本であるセルラーシステムについて解説することにしましょう。
携帯電話を英語ではCellular Phoneと呼びます(最近ではMobile Phoneということも増えています)。これは、Cellular Phone Systemという技術名称から来た呼び方で、日本でもかつて「セルラー」の名を冠した携帯電話会社が数多くありました。
セルラーとはCell(セル)、細胞の意味です。基地局を中心にした一定サイズのセルを多数配置し、これによる通話システムを作るのがセルラーシステムです。
電波は空中を伝わるため、同一の周波数を使うと通信内容が混信してしまいます。このため多くの国では、政府がその割り当てを管理しています。携帯電話もちゃんとこの周波数割り当てが行われています。
問題は、携帯電話は多数の端末があるため、単純に1つ1つに周波数を割り当ててしまうとどれだけ周波数があっても足りなくなってしまうことです。もう1つ、バッテリーで駆動する、機器を小型化するといった端末に対しての要望があるため、むやみに送信出力を大きくすることができません。
そこで、基地局を多数置いて、地域を分割して担当させることにしました。すると遠く離れた基地局では、同じ周波数を使っても混信が起きなくなります。これは携帯電話の送信出力が小さいこと、また、使っている周波数が高く、電離層などで反射して遠方に届くことがないからです。
電波の強さは、その発生源からの距離の2乗に反比例します。厳密には、アンテナの形などで違ってきますが、発生源を点として考えるとそこから球状に広がっていくため、遠くに行けば行くほど、そこで受信できる電波は弱くなります。ただ電波は、反射などで複雑な経路を通って伝わることがあり、そのようなときには、遠方であっても、電波同士が強め合う場合もあります※。
そこで考え出されたのが、地域をセル状に分割して、基地局を配置する方法です。1つのセルに1つの基地局があり、セル内の端末と交信して面倒を見るようにするのです。なお、このセルをゾーンと呼ぶこともあります。多数の端末を共存させる方式には、FDMA、TDMA、CDMAの大きく3方式あることを以前に解説しましたが(3月22日の記事参照)、回路的にはFDMAが最も簡単で、アナログ方式ではFDMAを使っていました。このセル方式も、もともとはFDMA用に考案された仕組みです。また、1つのセルに入ることができる端末の数を「収容数」といいます。
なぜセルと呼ばれるのかというと、各エリアの形状がまったく同じになるように分割するからです。厳密には、エリアの形というよりも、基地局の配置方法になります。セルラーシステムとは「一定の範囲をカバーするために基地局をどう配置すれば効率的なのか」という問いに回答を与える方法なのです。
さて、ここで数学の問題です。同一の正多角形で平面を分割できるのは、正三角形、正方形、正六角形の3種類の図形しかありません(図)。それ以外の形では、並べて隙間なく平面を埋めることができないのです。
各セルの中心に基地局を配置するのが基本的なセルシステムです。各セルが同一の形になるように配置したとき、1つのセルに対して、それに隣接するセルでは、違うチャンネル(FDMAなら周波数)を使うようにします。セルのサイズを適切に選べば、隣接していないセルでは、同じチャンネルを使うことができるようになります。このときセルの形によって、隣接するセルの数が違ってきます。
もう1つ考慮するのは、セルの中心に基地局があるとして、電波は実際には、この基地局を中心とした円上に広がっていく点です。こうした性質を考慮すると、正三角形、正方形、正六角形のうち、一番いい形は正六角形ということになります。なぜならこの場合には、基地局を中心にした円の重なりが小さく(図)、かつ、基地局間が最も離れることになるからです。
隣接したセルが同じ周波数を使わないような配置を考えたとき、必要なセル数を「くり返し数」といいます。最低のくり返し数は4で、以後7、9、12……となります(図)。周波数を割り当てるときには、利用できる全チャンネルをこのくり返し数で分割してグループ化し、これを個々のセルに割り当てていきます。違う周波数グループを割り当てた「くり返し数」個のセルを組みにしてクラスタと呼びます。実際の配置は、このクラスタをひとまとまりとして配置することになります。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PRアクセスランキング