「新規参入が値下げ競争にくるかぎりは、脅威じゃない」短期集中連載・夏野さんに聞いてみよう(1/2 ページ)

» 2005年10月05日 23時04分 公開
[杉浦正武,ITmedia]

 10月5日、都内で開催された「NICT情報通信ビジネスセミナー2005」にNTTドコモ プロダクト&サービス本部のマルチメディアサービス部長、夏野剛氏が登場。ドコモの戦略や、将来展望などを話した。

 冒頭、この種の講演には「スケジュールが合わないのでなかなか出られなかった。半年ぐらいぶりだ」と話した夏野氏は、久々の機会で話すことが溜まっていたのか多岐にわたるトピックに言及した。ITmediaではこの講演の内容を「短期集中連載・夏野さんに聞いてみよう」と題して、複数回に分けてお届けする。

インセンティブモデルは携帯だけではない

 夏野氏はまず、携帯業界に詳しくない人間もいるだろうとして“携帯業界の常識”を紹介。「携帯端末は売るほど損」――というのがそれだ。

 この論理は簡単だ。国内ではキャリアが、携帯端末をメーカーから仕入れて販売する方式をとっている。このときキャリアはユーザーが長期間契約して通話料・通信料を支払ってくれることを期待し、できるだけ安く端末を提供する。その価格は仕入れ値を下回るのが普通で、古くなって型落ちした端末なら1円で売られることも珍しくない。これを業界では「キャリアがインセンティブを付けて売っている」と表現する。

 夏野氏は自分の持っているP901iSをかざしながら、「この端末は5万円する。あまり詳しい値段をいうことはできないが、まあ5万円以上する。しかし売るときは3万円程度で販売している」と説明する。その差である2万円だけ、売れば売るほど損になるわけだ。

 この販売方式をとっているのは、何も携帯キャリアに限らないと夏野氏は指摘する。例えばゲーム業界でも、「プレイステーション2はDVDも再生できて、1万いくらというあんな値段で買えるはずはない」。ゲーム業界では、ハードウェアはできるだけ安く販売し、ソフトウェアで収益を上げようというモデルを構築している。ハードウェアメーカーにはソフトウェアベンダーから、ソフトが売れるごとにライセンス料が入る。このスキームで業界が上手く回るように考えられている。夏野氏は、Yahoo!BBのモデムを配布するモデルも要は同じことだと強調する。

 ここまで話した上で、夏野氏は刺激的な表現を使う。「つまり純増シェアを上げると利益は下がり、純増シェアを落とすと利益が上がる」。端末を安売りすれば、より多くの端末を売ることが可能だが、その分仕入れ値と販売価格の間の赤字は大きくなる。

 「それなのにマスコミはどこの純増シェアが上がったと書きたてる。これはおかしな話ではないか?」

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