誠

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連載
2005/09/28 18:12 更新

神尾寿の時事日想:
おサイフケータイ時代の幕が上がる(後編)

おサイフケータイの普及に向けては、越えるべきマイルストーンが3つあると筆者は考えている。2つ目のマイルストーンを越えようとしている現在、考えられる課題とは何だろうか?

 おサイフケータイの普及に向けては、いくつかのマイルストーンがある。

 最初のマイルストーンは、端末普及の確実性を上げること。すなわち、鶏卵のジレンマが存在しないと保証することだ。これは最大シェアを持つNTTドコモが主力端末への標準搭載化で率先して範を示し、au、ボーダフォンも実際の製品を市場投入したことでクリアしたといえる。既存3キャリアによるおサイフケータイ端末の普及は、今や既定路線である。

 2つ目は、話題性のある先行事例の創出である。おサイフケータイの場合、携帯電話側だけでは成立せず、さらに応用範囲が広いので、異なる分野で複数のソリューションを具現化しなければならない。フェリカネットワークスの河内聡一社長が語ったとおり、2005年はまさにこのフェーズだったと言える(3月3日の記事参照)

 今年は残すところ3カ月あるが、ソリューションの具現化というミッションは順調に進んでいる。コンビニ、スーパー、ショッピングモール、住宅、公共交通、オフィス用途から大学まで、各業界のアーリーアダプターと言うべき企業が、おサイフケータイ活用の先行事例を作った。さらに、ソリューションの具現化が行われたスポット的なエリアでは、ユーザー側のアーリーアダプターも増加している。彼らはおサイフケータイの利用率が高く、満足感も高い(7月22日の記事参照)。さらに今後、おサイフケータイがマジョリティ層に普及する際に周囲に影響を及ぼす“種火”でもある。

 そして、これから越えるべき3つ目のマイルストーンが“日常利用のフェーズ”である。ユーザーが「1日に2回以上、おサイフケータイをかざす環境に置かれる」ようになることだ。すでにkesakaシステム導入済みのマンション入居者や伊予鉄沿線の住人はこの段階にあるが、これが一般化するのが2005年末から2006年にかけてだ。その先兵が、来年1月開始予定のJR東日本「モバイルSuica」である(3月4日の記事参照)

おサイフケータイの課題はUI

 しかし、今後のフェーズで見るならば、おサイフケータイにも一抹の不安がある。本コラムで繰り返し述べているUIの問題である。

 実際におサイフケータイを使っている人ならばわかると思うが、おサイフケータイの利用にはFeliCa ICアプリをインストールし、多くのサービスが初期登録・設定をしなければならない。おサイフケータイの利用は「かざすだけ」と万人向けだが、準備段階では携帯電話コンテンツ/アプリを利用するリテラシーが必要である。携帯電話リテラシーの高いアーリーアダプター層までならいいが、その後のマジョリティ層への普及促進・利用拡大を目指す上では、このUIの課題がキャズム(断裂)になる危険性がある。

 ここで1999〜2000年頃を振り返ってみよう。“iモードがなぜ爆発的に普及したか”は、語り尽くされたテーマであるが、その要因として大きかったのが「初期設定要らずで電子メールが使えた」点にあることは周知の事実だ。iモード携帯電話を契約・購入すれば、ISPやソフトウェアの設定なしでメールが使える。これがアーリーアダプター層を飛び越えて、マジョリティ層まで一気に利用が拡大した理由である。

 その後携帯電話は飛躍的に進歩し、高機能化した。次第にリテラシーのハードルが高くなり“最新機能に追いつけない”ユーザーが増加してしまったのは、すでに多くの人が指摘している事実である。

 おサイフケータイは携帯電話メールのように、誰もが使えるサービスを目指している。しかし、現段階ではリテラシーの要求レベルが高く、「携帯電話メール『しか』使った事がないユーザー」がおサイフケータイを使うのは難しい。ドコモは「トルカ」によって、おサイフケータイ利用を始めるきっかけの幅を広げようとしている。これは効果のある取り組みだと思うが、UIの課題を解決するには、FeliCa ICアプリのインストール・初期設定を容易にする抜本的な改善が必要だろう。携帯電話メールくらい利用開始が容易になれば、カード型FeliCaからの乗り換えが爆発的に増えるはずだ。

2006年は、おサイフケータイ時代の幕開け

 ブレイクスルーの規模に対してUI上の課題は確かに存在するが、日常利用の環境が整う2006年は、紛れもなく「おサイフケータイ時代の幕開け」の年になる。端末の普及台数は劇的に増加し、様々なリアル連携ソリューションが誕生する。おサイフケータイならではの使い方・サービス、そしてビジネスが広がるだろう。

 携帯電話産業にとって、これは大きなチャンスだ。これまでの携帯電話ビジネスは、どうしても携帯電話というクローズドな世界の中で循環しがちだった。しかし、リアル連携をするおサイフケータイならば、そのビジネスの幅を大きく広げて、社会に浸潤させることができる。

 いよいよ、おサイフケータイ時代の幕が上がる。

 ITmediaビジネスモバイルでは、「FeliCa携帯、本格始動」と題して、これまでのおサイフケータイの経緯と先行事例、そして将来に向けての各事業者の取り組みを特集記事としてお送りする。新時代のビジネス動向を知る参考にしていただければ幸いである。

[神尾寿,ITmedia]

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