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2005/09/05 09:22 更新

神尾寿の時事日想:
ウィルコムは中小・系列企業の味方になるか

先日発表されたウィルコムの事業所向けの超小型基地局は、音声定額サービスとの組み合わせにより、いわゆる「モバイルセントレックス」を安価に実現するものだ。小規模から導入できるため、中小企業にとっても使いやすいサービスといえる。

 9月1日、ウィルコムが屋内設置型の超小型基地局「ナノセル基地局」と、ナノセルをベースとする事業所向けPHSシステム「ナノセルシステム」を発表した(9月1日の記事参照)。これは構内PHS+音声定額で安価なモバイルセントレックスサービスを提供するシステムだ。

 ウィルコムでは一般向けの「音声定額」をそのまま法人向けサービスの強みとする方針であり、ナノセルシステムは構内の通話トラフィックを安定化し、かつ公衆設備に負担をかけない上でも重要なものだ。

 過日、ウィルコムが「法人からも注目されている」ことを実感させられる出来事があった。ある中堅の電機電装系サプライヤーの取締役を勤める知人から、ウィルコムの現状とサービスの信頼性について客観的な意見を求められたのだ。導入を検討しているらしい。

 その会社が特に注目しているのが、ウィルコムの音声定額が社員同士の通話だけでなく、ウィルコム同士ならば「社外のウィルコム」とも定額になる点だという。同社は15社以上の系列企業を持ち、当然ながら、密な連絡を取り合っている。また系列ではないが、同社との取引量が50%を超える中小企業もあり、そのうちの何社かは地方に点在している。

 「系列の下請けや、うちとの取引が多い会社にウィルコム導入を推奨すれば、その部分も音声定額になるのではないか」(サプライヤー幹部)というのが、ウィルコムの導入検討が本格化した理由だという。

 周知の通り、日本企業の大半は従業員数300人以下(製造業その他の場合)の中小企業である。製造業を中心とした「系列」の結びつきは、90年代に中国を筆頭とするアジアへの大企業の工場移転で弱くなったと言われているが、「技術とノウハウの流出を防ぐという観点から、現在のトレンドは回帰と再結束」(自動車メーカー)に変化している。中小企業庁によると、最近では高度な技術力を持つ中小企業が、大企業の研究開発工程に参加する「機能発注・性能発注」型の関係が増えているという。

 また、中堅企業が中小企業とのネットワークを強化したり、派遣・下請け従業員を活用するシーンも増えた。製造業・非製造業を問わず、中小企業のビジネス体制も効率化・サービス化している。

安価・社外もOKの「音声定額」のメリット

 中小企業の変化の中で、ウィルコムの音声定額は確かに使いやすいサービスだ。

 家族経営のような小規模企業は2〜3台から導入ができて、中堅企業はナノセル導入で利用者増でもインフラ側を安定化できる。さらに契約法人が同一でなくてもウィルコム同士ならば音声定額になるので、大手・中堅企業が系列会社に導入させたり、取引量が多い中小企業同士が一斉に導入すれば、会社の垣根を越えた部分のコスト削減ができる。

 NTTドコモやKDDIが提供しているモバイルセントレックスは、「社内のコミュニケーションコストを削減する」ためのものであり、その効果を出すにはある程度の企業規模が必要だ。しかし、ウィルコムは1社あたりの規模が小さくても、導入企業が増えれば「音声定額・コスト削減」の環は広がっていく。これは中小企業・系列企業の関係性が強い日本の法人市場にとって、画期的で相性のいいサービスだ。

 だがその一方で、ウィルコムに限らずPHSには、地方の企業・ユーザーを中心にサービスエリアに対するネガティブなイメージが未だ残っている。これを払拭できれば、中小企業にもメリットの大きいウィルコムの音声定額は、法人市場における台風の目になる可能性がある。

[神尾寿,ITmedia]

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