伊予鉄道はなぜ、「FeliCa採用」に踏み切ったのか (前編)神尾寿の時事日想: (2/3 ページ)

» 2005年08月30日 12時57分 公開
[神尾寿,ITmedia]

サービス向上で、利用者増加に一転

 利用者の減少により、運賃を値上げする。結果として、利用者がさらに減り、公共交通からクルマへの利用者流出に歯止めがかからなくなる――典型的な“負け組スパイラル”に陥りかけていた伊予鉄グループは、一転して、「サービスの向上」を起死回生の旗印に掲げる。2001年のことだ。

 「まず、地方の私鉄としては希有な、運賃値下げを行いました。運行ダイヤを見直し、車両と施設の近代化も行った。対処的に取り組むのではなく、総合的にサービスを向上させました」(西野氏)

 具体的な事例を見てみても、新しい時代のニーズに応えていることが分かる。

 例えば、駅のバリアフリー化、低床電車の導入、全駅・全待合室の完全禁煙を実施。運賃は“分かりやすさ”を重視し、50円ごとになるように改訂した。

 街作りとも連携した。サービス向上宣言と同時期、伊予鉄グループでは「いよてつ高島屋」をオープン。同店で買い物をすると、伊予鉄の「お帰り切符」がもらえるといったサービスも用意した。他にも松山市の中心部開発に積極的に関わり、そこに交通事業の改善プログラムを連携させたという。

 また、IT技術を積極的に導入したのも特徴的だ。先のレポートでも紹介したが(8月24日の記事参照)、伊予鉄では大規模なバス・ロケーションシステムを導入。バスの各車両にドコモのDoPaモジュールが内蔵されており、携帯電話やパソコンから運行状況がリアルタイムに分かる。運行状況や到着予想時刻といった情報は、バス車内や大規模停留所にも表示される仕組みになっている。

 「これらの取り組みがお客様に評価され、平成13年度から利用者減少に歯止めがかかりました。その後、サービス向上宣言(プログラム)を3年間6回にわたり行い、13年度以降の利用客数は右肩上がりの成長に転じています」(西野氏)

 この取り組みの成果は、利用者増加はもちろん、伊予鉄グループ内に与えた影響も大きかった。地方の私鉄・バス事業は「利用客が年4〜5%減るのが当たり前。(全国的に)産業全体のあきらめ感がありました。しかし、お客様のニーズに応えて、サービス向上をきちんとすれば、利用者は増える。それを実証できた」(西野氏)

交通IT化の第2弾が非接触ICカードの導入

 サービス向上宣言によって、利用客の増加に転じた伊予鉄グループ。同社は次のステップとして、平成16年から5ヶ年の計画として、「いきいき交通まちづくり宣言」という発展プログラムを導入した。この柱の1つが、交通IT化のさらなる推進だ。

 「(サービス向上で)増加したお客様をいかに固定客とし、持続的に成長していくか。それを実現する重要な柱のひとつが『交通IT化の推進』です。

 この第1弾が、電車・バス総合情報システム(ロケーションシステム)の導入で、これは全国的に見てもかなり先進的なものが導入されている。そして、第2弾が非接触ICシステム『い〜カード』の全線導入です」(西野氏)

 伊予鉄では平成16年に非接触IC「FeliCa」によるICカードシステムの実証試験を実施。同時に、NTTドコモ四国愛媛支店の協力により、当初からおサイフケータイ対応を念頭に置いた試験も行った。

 また、当初から伊予鉄グループの電車・路面電車・バス・タクシーという複数の交通事業すべてでの統一導入が前提だったという。

 「松山の場合、鉄道路線が郊外に3線伸びており、それを補完する形で路面電車やバス路線が存在します。(お客様の)乗り換え利用が前提ですから、利便性を考えても同時にすべてで導入する必要がありました」(西野氏)

 ICカード技術としてFeliCaを採用することも、国内外の先行事例の多さや処理速度の速さ、セキュリティやシステムの信頼性から「他に選択肢が考えられない」(西野氏)ほどスムーズに決まった。伊予鉄がFeliCa技術で特に重視したのが、決済時のスピードの速さだという。

 「(クルマ依存への対抗という点から、)市内中心部でのバス・路面電車の定時運行、利便性向上は重要です。乗り降りの料金支払いは少しでも速いほうがいい」(西野氏)

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