また、OFDMでは必要な時間よりも長めに信号を送ることにより、マルチパス(4月19日の記事参照)の影響を排除する仕組みを組み込むことがあります。前述のように同時に複数ビットを送信しているため、1シンボルを送る時間を多少長くしても、全体的な転送レートには大きな影響がでないのです。これをガードインターバルといいます(図)。
マルチパスが発生すると、時間的にずれた信号が同時に受信されることになります。実際の受信信号は、複数の経路を通ってきた信号を重ね合わせた合成波になってしまいます。このとき問題になるのは、シンボルとシンボルの間で前後のシンボルを表す信号が重なってしまうことです。前後のシンボルは、基本的には無関係なので、お互いにノイズにしかなりません。同じ信号がずれて受信されたときには、時間的に前後させることで重なるのであまり問題にはなりません。
ガードインターバルは、シンボルとシンボルの間を開けることで、前後のシンボルを表す信号が重なりにくくしているのです。またカードインターバルの間は、後続するシンボルを表す信号から作り出した信号を送るため、ガードインターバルの後のシンボルには影響が少なくなります。
電波は光の速さで伝わります。だいたい1秒間で地球を7回り半する速度なので、マルチパスが発生したとしても、ごく僅かの時間しかずれません。このため、信号と信号の間にちょっとした時間を開けておくだけで、遅れて到達した電波の影響を排除することができるのです。
この方式は、地上波デジタルテレビ放送などで使われています。逆に、こうしたマルチパス対策が可能なため、OFDMが採用されたわけです。現行のアナログ地上波には、人物が2重に見えてしまう、俗に「ゴースト」と呼ばれる現象が頻繁に発生します。ゴーストとはマルチパスのことです。つまり遅れてきた電波が人物の映像をずらして表示しているのです。なおこの遅れが非常に短い場合や多数のマルチパスがある場合には画像のノイズとして現れ、マルチパスの数が少なく、時間が長いとゴーストのように見えるのてす。
都心などでは、高層ビルなどの影響でアナログ地上波の受信が困難な場所が数多くあります。このため、ケーブルを使って各家庭に地上TV電波を配信しているところさえあります。このため、地上波デジタルでは、最初からマルチパス対策が必要とされていたのです。
もう1つ、OFDMでは、占有帯域のうち特定のキャリアだけを使わないという選択が可能です。このようにすることで、利用帯域の一部を抜いて通信を行うことができます。これは、ワイヤレスUSBや電灯線を使った通信など、比較的広い帯域を利用する通信ではメリットがあります。これらの中には、ほかの通信方式に割り当てられていて、干渉が問題になる周波数や、国によって割当て範囲が違う場合などがあるからです。
なお、ガードインターバルを入れることで、実際には、各サブキャリアの位置がずれ、図に示したようにスペクトラムのゼロ点には並ばなくなります。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PRアクセスランキング