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連載
2005/05/30 11:27 更新

神尾寿の時事日想:
「スーパーでEdy」の結果は?アサノ社長インタビュー(前編)

ポイントシステムと電子マネーを組み合わせたシステムに、もっとも喜んでいる顧客はお年寄り──仙台のスーパー「アサノ」でEdyを導入して2年。現場では、どのような変化が起きているのだろうか?

 仙台のスーパー「アサノ」。本誌読者ならば、NTTドコモのおサイフケータイ関連の記事で、その名を目にした人も多いはずだ。

 アサノは仙南を中心に6店舗を展開する地域密着型のスーパーマーケットだが、2003年4月から電子マネー「Edy」を導入したことで注目を集めた。ドコモのおサイフケータイにもいち早く対応し、店舗で拡販するなど積極的に推進している(2004年6月16日の記事参照)

 地域経済・流通の重要な足下であるスーパーマーケットにとって、電子マネーやFeliCa携帯はどのようなメリットをもたらすのか。仙南の地を訪ね、アサノ代表取締役である浅野正一氏に単独インタビューを行った。

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アサノ代表取締役、浅野正一氏

“平日リピーター”を守ることが第一義

 インタビューの冒頭、浅野氏の口から出たのが、地方の小売業を取り巻く厳しい環境だ。

 「地方の小売業、特に我々のような地域密着型スーパーでは、大規模店舗との価格競争、(地方の)人口減少という2つの大きな課題を抱えています。以前から、厳しく、激しい競争を強いられています」(浅野氏)

 Edy導入以前、アサノでは新聞の折り込み広告のほかにFAXでお得情報を送信する「FAX会員」を集めたり、他店との競争激化にともなってクーポン券の割り増し配布を行うなど、コストと手間をかけて「囲い込み」を実施していた。しかし、それでも休日の安売り競争をしなければならないという負担は大きかった。

 「休日のセールを目的に多くのお客様に来店して頂くことは、それはそれでありがたいのですが、小売り店が第一に利益を還元しなければならないのは、毎日来店してくださるお客様です。平日の売り上げが、休日の安売り販売の補填や広告販促費に回るというのは、優良顧客である平日リピーターの利益を損なう。これが今の小売業の“いびつさ”であり、我々が電子マネーやおサイフケータイ導入で目指したのは、この(いびつさの)是正。平日リピーターを守るという考え方なのです」(浅野氏)

 具体的には、送信料のかかるFAX会員や、発行や集計にコストがかかるクーポン券を段階的に廃止。2003年4月からスタートしたアサノのEdyカード「おさいふカード」に独自のポイントプログラムを組み合わせて、優良顧客への利益還元、囲い込みツールとした。Edy導入に踏み切った背景には、将来のおサイフケータイ活用があったという。

 「早い段階にビットワレットの担当者から、将来、携帯電話でもEdyが使えるようになるという(おサイフケータイの)ビジョンを聞いていました。これが導入の決め手になりました」(浅野氏)

 なぜなら、アサノでは電子マネーシステム導入の原資として、クーポン券廃止によるコスト削減分のほかに、新聞への折り込みチラシ半減による広告費削減分をあてているからだ。

 「広告に関しては電子メールに切り替えることを中長期的な目標にしています。そうなると電子マネー機能とメール機能の両方を持つ、おサイフケータイ利用者の増加が前提になる。現在、おサイフカード会員は、FeliCaカードとおサイフケータイあわせて約1万2千人ほどおり、順調に利用者数は増えています。しかしメール広告を増やすためには、今後、FeliCa携帯型のユーザーを増やしていく必要があります」(浅野氏)

Edyの平日利用率は5割以上。シルバー層に好評

 アサノでは現在、6店舗のうち5店舗でEdyを導入している。これまで電子マネーというと、都市部のコンビニやオフィスビルで、一部の先進的なユーザーが使うというイメージが一般的だったが、アサノの現状は異なる。

 「利用率の点では、(Edy利用が)多い店舗で平日決済の5割以上がEdy利用になっています。少ない店でも3割は超えており、Edy決済は定着してきています。すでにEdy決済利用率7割以上が視野に入ってきました。実際、ドコモやビットワレットの方が視察にいらっしゃると、『こんなにEdyの(決済)音が鳴っている店舗は初めてだ』と驚かれますよ(笑)」

 電子マネー利用率が5割以上となると、当然ながら、店舗のオペレーションにも変化が現れる。

 「レジ回転率の向上、決済スピードのアップは著しいですね。レジ店員の配置における(コスト)成果も見えていますし、何よりも会計が早いというのは顧客満足度向上になる。目標であるEdy決済率7割に達すれば、電子マネー専用のスピード決済レジ設置や、ゲート式の無人レジ設置も可能になってきます」(浅野氏)

 また、レジで現金取り扱いが減ることは、計算や現金受け渡しミスによる損金やトラブルの発生を抑える効果もある。集金・集計の手間も減少。「現金リスクを減らすというのは、様々な面で効果があるという事が実感できた」(浅野氏)という。

 しかし、スーパーマーケットは幅広い客層が訪れる場所だ。リテラシー格差による顧客の抵抗感などはなかったのだろうか。

 「お客様の抵抗はありませんでしたね。むしろ好評です。特にお年寄りの皆さんは、レジでのお金のやりとりから解放されることで、『支払いが遅くて周りに迷惑をかけずに済む』と喜んでもらっています。決済がスピーディで簡単というのは、実はお年寄りの負担やストレスを軽減するのです。今では、お年寄りの方が友達や家族におさいふカード利用を勧めるなど、口コミで利用者が広がっています」(浅野氏)

 シルバー層などは、これまで先進のITサービスでは普及期後半に利用が増えると思われがちだった。しかし、アサノでは「電子マネーとか難しいことは言わない。お年寄りに『皆さんの買い物が便利になりますよ』と説明しただけ」(浅野氏)で、導入初期からシルバー層も含めた利用率を高める事ができた。その結果、店舗と顧客の双方にメリットがうまれている。

 また、買い物による累積ポイントで5段階のランクがつき、それによって翌月の割引率が定まるという、アサノのポイントプログラムは、電子マネーの手軽さと相まって顧客平均売り上げの増加に貢献している。

 「おサイフカードではレシートの現在の累積ポイントやランクがわかるのですが、これによって『あと少しでランクが上がるな』という事がわかります。ランクがあがれば翌月の割引率が増えますので、積極的に毎日のお買い物で来店していただるようになります。また、電子マネーだと1〜2品は多く買っていただけるようですね。(Edy利用者の)顧客単価は2割程度、そうでないお客様より高いという結果になっています」(浅野氏)

 電子マネー利用における顧客単価の増加は、コンビニエンスストアなど他の導入例でも現れている現象だ。過日、JR東日本のコンビニエンスストア「NEW DAYS」を取材した時にも、担当者が「Suica電子マネー利用者の顧客単価は1〜2割は高い」と語っていた。電子マネーの導入はレジ回転率の向上や人員コストの削減だけでなく、売り上げ拡大にも貢献するようだ。

[神尾寿,ITmedia]

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