PalmSourceはどこで道を誤ったのか

» 2005年05月25日 23時05分 公開
[Guy Kewney,eWEEK]
eWEEK

 時代遅れのソフトプラットフォームに数百万人の熱心な固定ユーザーがついていたことから、Palmのソフト事業がハード事業から分離されたときには、ソフトの進化がハードに反映されにくいことが既に目に見えていた。ソフト事業を率いたデビッド・ネイゲル氏は奮闘に奮闘を重ね、そして力尽きた

 何が問題だったのかといえば、Palmは成功しすぎたのだ。

 Palm Pilotは登場と同時に空前の大ヒット商品となり、初代ウォークマンを上回る勢いで毎月うなぎ登りにユーザーが増えていった。キーボードがないちっぽけなハンドヘルドデバイスは世界を驚かせ、ソフトの世界では対応プログラムの開発ラッシュが起こった。

 この圧倒的な成功を受け、開発元のPalm ComputingはU.S. Roboticsに買収された。当時のU.S. Roboticsは躍進中のモデムメーカーで、業界首位のHayesを追撃するとともに企業ネットワーキング分野に進出していた。この分野での成功が3Comの目を引き、同社はU.S. Roboticsを買収したが、結局関心を失って手放した。

 だが、Palmは経営的にうまみのある製品だった。3Comはこの金のなる木を手元に残して甘い汁を吸った。

 もちろん、3Comが本来やるべきだったのは投資と技術革新だった。当時、3Comのリソースと、開発元の創業者たちの才能、ライセンス供与先のIBMとSonyからの支持に支えられたPalmは、押しも押されぬハンドヘルドの標準の座にあった。既にPsionも販売されており、その技術をベースにSymbian規格も登場してきたが、Windows CEはまだ海のものとも山のものとも分からない代物だった。

 しかし、3ComはPalmの甘い汁を吸うのに夢中で、Palmからひたすら利益を絞り出すばかりだった。その資金をつぎ込んだベンチャー事業は失敗に終わった。絶望したPalm Computingの創業者たちは同社を去ってHandspringを設立、Palm OSのライセンスを受けた。彼らが生み出したのが大人気のスマートフォン「Treo」だ。

 問題なんて、ありえないのに。

 市場に出回っている膨大なISV製ソフトのどれかをTreoにインストールしてみよう。例えばIRCプログラムだ。インターネットにログオンしてIRCサーバにアクセスし、チャットを始められる。

 そこに電話がかかってきたらどうなるか。話は単純で、IRCセッションはあっさり切断されてしまう。Palm OSの「Garnet」バージョンはシングルタスクで、同時に2つのアプリケーションを動かすことはできないからだ。

 Palm OS(旧バージョン)はこんなばかげたことばかりだ。ネットワーキングスタックは実際にはアプリケーションレイヤであり、開発システムが見直されたのもつい最近だ。Palm関係者は皆、このOSが時代遅れでしかないことを知っている。

 デビッド・ネイゲル氏はこの事実を隠さなかった。実際、隠すまでもなかった。開発者は誰でも知っていたのだから。しかし同氏は、自分の仕事はPalm OSの最新バージョンを開発することだと語り、昨年のCobaltのリリースで約束を果たした。われわれは皆、PalmOneがこのOSを採用した新型機を同時発売するものと期待した。

 9カ月後の今、Palm OSのメインライセンシーであるPalmが投入するTreoの最新機では、いまだにGarnetが動いている。

 このことでネイゲル氏を責めるのはまったく愚かなことだ。一部の愚かな人々は既にそうしている。同氏が今回、白旗を上げて辞任したのだとすると戸惑わされるが、しかし、それが同氏の選択だとしたら責められない。もしそうでないなら、同氏を追い出した人々こそ愚か者だ。

 あえて言えば、同氏の後を継いだ経営陣と会ったときに、彼らが「彼のすべての誤りを正すことで」会社の再建を進めるなどと説明したら、私は上の言葉をまた言い直さなければならない。だが実のところ、すべての元凶はPalmとそのOSをこの10年の中の最盛期に腐らせてしまった3Comの上級副社長たちだ。その間にほかの製品は進化を遂げていった。

 問題は、Palmの人々が現状に甘んじる3Comの惰性を受け入れなかったことだ。それどころか、彼らはそれと戦った。彼らはアプリケーションをアプリケーションレイヤに統合して内部的にマルチタスクで実行できるように、プラットフォームに手を加えた。Palm自身が販売するパッケージに含まれるソフトであれば、マルチタスクで動作するようになった。だがISVにとっては、そうしたマルチタスク機能を利用することはPalmの支援と協力がなければ不可能だった。

 つまり、Garnetアプリケーションをすべて切り捨てなければ、Cobaltに移行することはできなかったということだ。

 Garnetに代わる適切な選択肢はJavaだったという議論もある。これは50ccのモペットバイクを1000台集めれば、60トントラックの代わりの有効な貨物輸送手段になるというのとちょっと近いものがある。Palm対応ソフトの開発者が求めているのは、堅牢な無線通信制御機能を持ったWindows CEやOSE、そのほかのリアルタイムOSの代わりに使えるモダンなマルチタスクOSであり、時代遅れの不適切な基本レイヤに機能を継ぎ足したようなものではない。

 CobaltがモダンなOSかどうかに関して言えば、たぶんそうだろう。ほかのPalm OSライセンシーとの競争関係を明確にするためにPalmOneから分離されたPalmSourceは、当面はこのOSで前に進む以外に選択の余地はほとんどない。

 楽観的に見れば、PalmSourceはChina Mobilesoftを買収したことで、ハイエンドのスマートフォン市場をターゲットにするライセンシーや開発者が事業を進めるのを横目に、ミッドレンジの携帯電話機向けビジネスで成長するのに必要な、開拓余地のある市場への足掛かりをつかんだと考えられる。また同様に、ネイゲル氏とそのチームはやるべきことが分かっていてその大部分に着手済みであり、後に続く人々は彼の取り組みの果実を受け継いでいくだろうとも考えられる。

 しかし現実的に見れば、情報通が口をそろえて言うように、「彼らがそれを5年前にやっていたら無敵でいられただろうに」と思わざるをえない。今では過去の成功がPalmSourceの足かせになっているのかもしれない。彼らは生き残れるだけのスピードで前進できるだろうか。動きが遅ければ、投資家はまだ前を向いている彼らを見限って、資金を引き揚げてしまうかもしれない。

 タイムマシンがあれば、新しい経営陣は問題を解決できる。それがないとなると、彼らに言えることはこれくらいしかない。「投資家があなた方が思っているとおりの鈍い人たちでありますように」

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