誠

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連載
2005/05/13 18:00 更新

神尾寿の時事日想:
地デジ対応ケータイに向けて、放送業界は変われるか

地デジ対応携帯のスケジュールが見えてきた。携帯で見るとなれば、新しい放送内容や機能が必要となってくる。しかし旧態依然とした放送業界は、ユーザーニーズに応える新しい仕組みを考え出せるだろうか?

 地デジTVの1セグ放送対応への動きが見え始めてきた。

 5月12日、ボーダフォンが地上デジタル放送(1セグメント)を受信できる端末の試作機開発を発表した(5月12日の記事参照)。5月26日からNHK放送技術研究所で開催される、「技研公開2005」で展示する予定だという。

 また、5月10日にイプシ・マーケティング研究所が発表した資料によると、端末買い換え時に欲しい機能として「テレビ機能」を挙げたのは全体の36.5%。テレビという、馴染みがあり携帯電話にとっては目新しいコンテンツ/メディアの登場に、ユーザー側も期待感を持っているようだ。

 しかし筆者は、地デジ対応ケータイに多くの疑問を持っている。その疑問の1つが「放送業界はケータイの利用環境をしっかりと考えているのか」である。

 放送局やプロダクション(番組制作会社)、広告代理店テレビ担当など放送業界関係者は、地デジ対応ケータイの登場は、外出中など「固定テレビから離れている時」を視聴時間に変えられると期待する。今まで携帯電話コンテンツが獲得していた“隙間の時間”を狙っているのだ。

 だが、テレビというメディアには、隙間の時間を獲得するために必要な「オンデマンド性」がない。一方でオンデマンド性の欠如を穴埋めする多様性、すなわちスカパー!のような「専門多チャンネル化」への取り組みも、日本の地上波キー局は遅れている。

 モバイルでの視聴を考えるなら、求めるコンテンツをパッと見られて、“パッと切り上げられる”点の両方が必要だ。オンデマンド性がなく、多チャンネル化が早期に難しいならば、コンテンツそのものが短い時間でも楽しめる内容でなければならない。

 また、ユーザーの視点で携帯電話向けテレビを考えると、番組の視聴を「一時停止」できる機能や、見たいところだけ選べる「早送り」機能が欲しいところだ。放送業界では2007年以降を目処に、テレビ内蔵のハードディスクに番組を蓄えてタイムシフト視聴を実現する「サーバー型放送」への取り組みを行っているが、利用環境の特性で考えるならば、タイムシフト視聴のニーズは携帯電話向けの方が大きい。またサーバー型放送で検討されているように、メタデータを用いることにより、ユーザーが「番組の好きな場所だけ見る」仕組みも必要だろう。ユーザーが最小の時間で最大のコンテンツ価値を得られなければ、利用時間が細切れになるモバイル環境に合わず、何よりもバッテリーのムダ遣いが多くなってしまう。

 携帯電話向けの地デジ1セグ放送は注目されている。だからこそ、放送局やプロダクションは、コンテンツの内容、サービスの在り方からしっかりと「携帯電話の利用環境」を意識しなければならない。放送業界が固定テレビの感覚から抜け出せず、番組をライブで、すべて見てもらうことに執着すると、携帯電話と地デジTVの融合は、一時の目新しさで終わってしまう可能性がある。

 通信と放送の融合は目下の流行語だが、その実現には、放送業界側が古いマインドから抜けだし、旧態依然としたコンテンツ提供の仕組みを変えられるかが鍵だ。ユーザーニーズの多様化・オンデマンド化の要望に対して柔軟に対応をする姿勢が、今の放送業界には求められている。その最初の試金石である携帯電話向け地デジ1セグ放送で、是非とも放送業界には変わってもらいたいと思う。

[神尾寿,ITmedia]

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