仏Varioptic、携帯カメラ用液体レンズをデモ

» 2005年04月19日 23時45分 公開
[吉岡綾乃,ITmedia]

 仏Variopticは4月19日、AF機能に対応した液体レンズモジュールのデモを行った。携帯電話のカメラ用を主な用途と想定しているが、バーコードリーダー、PC用ビデオカメラ、防犯用カメラなどへの採用も考えられるという。2006年第1四半期に製品化予定で、モジュールの単価は1ユーロ程度を目指しているという。

 Variopticは仏リヨンに本社を置く会社で、韓Samsungとは開発において協力関係にある。製造拠点も持っているがそれほど大規模ではないため、メーカーにライセンスを供与する形で展開していきたいとする。

仏VariopticのCEO、Etienne Paillard氏

水と油の境界面がレンズになる

 基本的な原理は、電導性の高い水溶液と、絶縁体の油を封じ込めた容器の中で、電極から電気を流し、電圧をかけて水溶液と油との境界面を変化させるというもの。境界面のふくらみを変えることで焦点を動かし、AFを合わせる仕組みだ。使う液体の種類によって合焦速度を変えられるが、実際にどのような液体を使っているかは明らかにしなかった。

 現在、携帯カメラ用のAF制御システムとしては、ステッピングモーターやボイスコイルモーター(VCM)、ピエゾモーターなどがあるが、液体レンズは「可動部品がないため壊れにくい」「衝撃に強く、連続使用にも耐える」「モーターやギアが不要なので小さくできる」「仕組みもシンプルなのでローコストで製造できる」「従来モジュールの10分の1程度の低電力で動作する」などの点が長所だという。

水溶液と油を満たした中に、上下から電圧をかけることで境界面を凹凸させ、焦点を移動させる仕組み。研究が始まった頃は500ボルトもの電圧を必要としたが、現在は40ボルト程度で動かしている
液体レンズを利用した試作カメラ。USBカメラとしてノートPCに接続し、レンズから数センチのところにかざした名刺に合焦したり、数メートル離れたところにあるホワイトボードに書かれた文字に焦点を合わせたり、というデモを行った
レンズユニット(図のVarioptic lens element)とドライバIC(レンズとDSPの間にあるIC)がモジュールの基本構成。DSPから4.8ボルトで入ってきた電流を昇圧し、40ボルトにしてレンズの制御に用いる

光学ズームにも対応、試作機は2.5倍ズーム

 Variopticは複数の液体レンズを組み合わせることで、光学ズームに対応したカメラモジュールレンズも試作中だ。光学ズームが可能な液体レンズは世界初だという。

 独ハノーバーで行われた2005年のCeBITでは光学ズームのデモを行った。今回は光学ズームレンズモジュールのデモは行われなかったが、直径5センチの液体レンズを用いて、焦点距離42ミリ〜105ミリ(35ミリ換算)のズームをしているデモムービーを見ることができた。

液体レンズを複数組み合わせることで、光学ズームも可能になる。左側の液体レンズはズーム機能を、右側の液体レンズはAF機能を司る

小さなレンズしか作れない

 携帯電話用カメラをターゲットとしているのは、原理上、大型のレンズを作れないためでもある。現在Variopticが発表しているレンズ「AMS-1000」は、15℃〜40℃という温度条件で動作するもので、直径3.6ミリ。撮像素子が高解像度になるほど大きなレンズが必要になるため、高機能のデジタルカメラへの応用は難しい。「今の技術だと、400万画素あたりが限界だろう」(Etienne氏)

 温度変化に弱い点も課題といえる。正常に利用するためには水溶液と油が同じ密度であることが必要だが、温度が変わると液体の密度が変わってしまう。条件がよいところ(=温度変化が少ないところ)でないと、大きなレンズを使えない。現在の技術では、−20度〜80度(温度差100度)の環境下では、直径5ミリが限界だという。

「電気を流すことで水面の形を変える、液体レンズの原理を利用しようと考える人はたくさんいる」とEtienne氏が述べた通り、蘭Philipsも同様のレンズのデモを2004年に行っている。原理はどちらもほぼ同じだが、「Philipsはアプリケーションしかパテントを取っておらず、現在申請中の状態。しかし液体レンズの特許はVariopticが持っている。感触としては、Philipsが液体レンズを独自の技術だということは厳しいというのが一般的な見解」(Etienne氏)とした。

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