誠

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連載
2005/04/08 11:24 更新

神尾寿の時事日想:
そろそろ真剣に「新シルバー層向けUI」を考えよう

昭和22年から26年頃生まれの団塊の世代が、そろそろ定年を迎える。約800万人と言われるこの市場に向けた商品には新しいUIの設計が必要となるが、それが作れるのは携帯メーカーとゲームメーカーではないだろうか。

 「いや、ほんとにややこしい世代です」

 先日、ある自動車メーカーの広報担当者が漏らしたことがある。彼の父親の話から、昨今、注目されている「“団塊の世代”マーケット」に話が及んだ時だ。

 団塊の世代は2007年頃から定年し、「第二の人生」に踏み出す。約800万人の市場だが、彼らの持つ資産は多く、“年金逃げ切り組”であることから消費への意欲も高い。筆者は様々な業界の商品企画担当者と交流があるが、その中でも最近のキーワードは「団塊(の世代)マーケット」である。

 むろん、自動車メーカーは団塊の世代の懐を狙う急先鋒だ。旧来の高級車はもちろん、最近、業界内で注目される「プレミアムコンパクト」(高級な小型車)などは、子どもが独立した老夫婦をターゲットにしている。団塊の世代向けの調査や商品企画には力を入れている。

 しかしその結果、団塊の世代は「ややこしい」ことが分かるのだという。彼らは従来の“高齢者”の概念に収まらないのだ。詳しく書くと長くなるので割愛するが、端的に言うと、「シルバー向けを意識させるものは嫌がられる」のだという。さらに趣向にまとまりがなく、ニーズが多様化している。55歳から65歳までの彼らは、枯れることを拒絶しているのかもしれない。

 とはいえ、身体能力は否応なく衰える。様々な機器や商品は進化しており、新たなリテラシーを要するものは増える。

 「かといって、『はいユニバーサルデザインです』という商品を作ると、『オレをバカにしているのか』と概して不評だから難しい。彼ら(団塊の世代)は現役世代と同じ、もしくは現役をリードする存在でないと、自尊心が傷つくみたいなんです」(自動車メーカー商品企画担当)

携帯電話メーカーとゲームメーカーの強み

 ニーズが強くて、口うるさい。一方で、身体能力は確実に落ちてくる。団塊の世代は「新シルバー層」とでもいうべき存在で、今までの“シルバー向け”は通用しない。

 マクロミルが4月1日に発表したアンケート調査結果では、50代〜60代の携帯電話選びでも「カメラ」や「メール」といった機能にニーズがあった(4月6日の記事参照)。これは現役世代、特に若者と変わらない傾向だが、それも当たり前なのかもしれない。新シルバー層は「枯れたくない」のだから。

 今後、日本のメーカー各社が考えなければならないのは、新シルバー層向けのUIである。しかも洗練されていて、とびきり“クール”なものだ。団塊の世代の自尊心をくすぐりながら、隠された部分に「使いやすさ」が存在する。シルバー向けを感じさせたら、負けである。

 筆者は、洗練された新シルバー層向けUIが作れるのは、携帯電話メーカーとゲーム機器メーカーだと考えている。「若年層向けUI」と「新シルバー層向けUI」のニーズ・傾向は、実は相似性があるからだ。セガトイズがハイテク玩具のコアシステムを高齢者マーケットに投入すると発表したが(4月5日の記事参照)、この流れはアリだろう。セガだけでなく、任天堂、SCE(ソニーコンピューターエンタテイメント)などのUI開発部隊の経験は、応用すれば新シルバー層向けで十二分に通用すると思う。

 携帯電話メーカーも同じくだ。日本の携帯電話メーカーは、長らく独自のUI開発でライバル他社と競争してきた。マイクロソフトに「UIの丸投げ」をしてきたPC開発部門と比べれば、格段に豊富なUI開発経験を積んでいる。

 昨今、日本の携帯電話メーカーでも、ソフトウェア共同開発でUIを他社と共通化する動きが出ているが、これはやめた方がいいだろう。UI開発のノウハウは、今後、重要な資産・知財になるからだ。まして、ボーダフォン向け端末のように「世界共通UI」を使うなど論外である。法人の業務専用端末を除けば、UIに多様性があり、メーカー間で切磋琢磨する状況が続いた方がいい。これはコスト削減より優先すべき事項である。

新シルバー層向けUIが日本の武器になる

 新シルバー層向けのUIの重要性は、何も日本の中に閉じたものではない。先進国の多くが高齢化社会の傾向を示しており、今後、ITテクノロジーになじんだ世代も高齢化を迎える。

 特に北米市場では、ベビーブーマーの高齢化がすぐそこに控えている。彼らは日本の団塊の世代と同じく、アンチエイジング、すなわち「枯れることを拒絶している」。ITやデジタルAVにもなじんでいる。しかし、高齢化とともに洗練や使いやすさを求めるようになる彼らに、今のWindowsのようなPCのUIが応えられるか疑問だ。

 世界的な「先進国の高齢化」が起きる時、一足先に高齢化社会を迎えた日本のUI技術は大きな価値を持つのではないか。新シルバー層向けUIは将来、日本のIT産業にとって重要な武器になる。

 日本の団塊の世代は、まずマーケットとして、次に巨大な実験場としての価値を持っている。日本メーカーは地政学的に有利な位置におり、この資源を活用しない手はないと思う。

[神尾寿,ITmedia]

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