誠

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連載
2005/03/01 09:54 更新

神尾寿の時事日想:
ドコモ「PHS撤退」の真意

1998年に引き取ったPHS事業を生かし切れなかったドコモ。今後はFOMAに注力するというが、定額制通信が前提の時代となれば、FOMAを補完するネットワークは必要になる。ドコモは何に白羽の矢を立てているのだろうか?

 2月28日、NTTドコモがPHS事業から撤退すると発表した(2月28日の記事参照)。1995年にNTTパーソナルとして誕生し、1998年にドコモに営業譲渡・吸収されたNTTのPHS事業は、ついに幕引きを迎えることになった。

 1998年当時、ドコモがPHS事業を引き受けることについては、内外に少なからぬ疑問の声もあった。NTTグループではPHSは「持ち歩ける自宅電話」という認識であり、公衆電話の延長線上にあるサービスという見方があったからだ。

 しかしドコモは、PHS事業は移動通信事業としてドコモの事業との親和性が高いこと、そのため事業を引き受けると類似サービス・技術の統合などによる相乗効果が期待できる、長期的に移動通信事業の変化に柔軟に対応できる、ポケットベル、PHS、携帯・自動車電話などの移動通信サービスを総合的に提供することにより、商品選択の幅が広がる、各サービスの総合的なポジショニングを勘案しつつ戦略的な販売やサービスの提供が可能となる、という5つの理由を挙げてPHS事業を引き取った。

 あれから6年、ドコモはPHSを生かし切れなかった。

 携帯電話・PHSを融合したドッチーモや、ファミリー割引の適用、マルチメディアコンテンツ配信を試みた「M-stage」、PC向け定額データ通信サービス「@FreeD」など、様々な取り組みを行った。だが、爆発的に進展したiモードと比べると、どれも本腰が入っていたのかどうか疑問が残る。

 ビジネス面でも、「携帯電話と類似するビジネスモデルの弊害」や「NTT地域会社のISDNネットワークに依存する問題」といった諸問題に対し、抜本的な解決のメスは入れられなかった。そこにはドミナント規制への警戒や、NTTグループのしがらみなどもあり、ドコモだけの責任と言えない部分は確かにある。だが、それらのハードルを積極的に乗り越えていく意志がドコモ内に希薄であり、PHSを持てあまし気味だったのは事実だろう。

 ドコモはPHSを手放し、今後はFOMAに注力するという。市場が縮小し、赤字が出続けるPHSを手放すという経営判断は正しく、この主張に偽りはないだろう。中村維夫社長が話すPHS撤退の理由はどれも肯けるものだ。

 しかし、HSDPAを導入したとしても、ドコモのユーザー規模では、PC向けのデータ通信定額制が実現できる可能性は低い。また携帯電話事業でも、それほど重要視されていなかったにせよ、トラフィック分散をするパスをひとつなくすことになる。FOMAに注力するのは当然だが、大容量通信・定額制が前提となる時代を前に、FOMAを補完する「第2のネットワーク」は必要だ。

 おそらくドコモは、その役割を無線LANに見い出しているのではなかろうか。公衆無線LANアクセス「Mzone」の東京メトロ全駅へのエリア展開や、ボーイングとの提携など、ドコモの無線LAN関連ビジネスは着実に拡大している。また、複数の消息筋によると、「ドコモは固定網ブロードバンドとの連携を考えている」という。ここでも鍵になるのは、携帯電話やPCに内蔵される無線LANになりそうだ。

 第3世代携帯電話と無線LAN(+固定IP通信網)の連携・融合は世界的なトレンドであり、海外でも「FMC (Fixed Mobile Convergence)」として様々な形で取り組まれている。これは爆発的に増えるモバイルのトラフィックを無線LAN+固定IP通信網に分散することで携帯電話ビジネスをさらに拡大するのが目的だ。3Gや4Gをサポートするものであり、競合することはない。

 ドコモが今回、ローカル仕様でNTTグループのしがらみも多いPHSを整理したのは、無線LANを使ったFMCに乗り出す布石ではないだろうか。

[神尾寿,ITmedia]

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