コンシューマー市場での成功と、そのくびき 神尾寿の時事日想

» 2005年02月18日 09時12分 公開
[ITmedia]

 昨日、Vodafone Business Conferenceのトークセッションにパネリストとして参加した。トークセッションは企業における携帯電話利用の実態と将来に向けた課題をテーマにしたもので、その内容は多岐に及んだ。その中で大きなテーマになったのが、携帯電話の「コンシューマー市場での急速な進化」がもたらした法人市場への悪影響である。

 実はこのテーマは、カンファレンス開始前に、ボーダフォン法人営業統括部のマイケル・ベナー部長らと交わした意見交換の中身でもあった。ベナー部長は日本のコンシューマー市場のレベルが非常に高いことと、その市場の重要性を認めた上で、法人市場の進化が遅れていると指摘。キャリアの法人市場向けビジネスの在り方から考え直す必要があると強調した。これには筆者も同意見であり、建設的な方向で議論を行うことができた。

 日本では1999年のiモード登場からコンシューマー市場の携帯電話利用が急速に進化し、トラフィックが爆発的に増えた。これによりコンシューマー市場が携帯電話ビジネスの花形になり、そこを中心にサービスと端末が開発されるようになった。一方、法人市場は安定的なマーケットとして「量」を取りたいと各キャリアは奔走したが、顧客のビジネスを向上させるような提案や法人市場向けの新機能開発など、「質」の部分ではコンシューマー市場より立ち後れてしまっているのが現実だ。

 キャリアのビジネスモデルだけではない。企業、そしてユーザーも、携帯電話の利用スタイルで「ビジネス」と「プライベート」の区別が曖昧な場合が多いのではないか。よくも悪くも、日本の“ケータイ”はコンシューマーが中心なのだ。

 日本の携帯電話ビジネスがここまで進化・拡大したのは、コンシューマー向けの新市場開拓が成功したからだ。それは疑いようのない事実であり、功績は大きい。しかし、その反面、「コンシューマー市場」がある種のくびきになってしまっている面が否定できないのではないか。例えば、あるキャリアでは、車を使う法人顧客のために魅力的なBluetooth内蔵携帯電話を増やしてほしいと要望を出したところ、端末の企画開発を担当する部署から「女子高生が魅力的と感じるBluetoothのニーズがあれば搭載機種を増やす」と突き返されたという。

 携帯電話がビジネスシーンにおいても“インフラ化”する中で、コンシューマー市場のくびきから離れ、ビジネスシーンに最適な携帯電話のサービスと端末、利用形態を考えるべき時期に来ている。

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