ストレスチェック義務化は、新たなリストラのツールとして悪用されないか?
50人以上の従業員を抱える企業は、年に1回、全社員を対象としたストレスチェックをする義務を負います。メンタルの状態を会社に知られることで悪影響はないのでしょうか?
前回の本コラムで、労働安全衛生法一部改正案における企業における従業員のストレスチェック義務化について取り上げました(参考記事)が、本法案は2014年6月19日に衆議院で可決されました。
ストレスチェックの義務化により、従業員50名以上の企業では年1回従業員に対してストレスチェックを行わなければなりません。そして、企業はストレスチェックの結果を従業員に通知したうえで、従業員が希望した場合には産業医等の医師による面接指導を実施します。
ストレスチェックの結果でリストラされないのか?
ストレスチェックが義務化された結果、「ストレスチェックの結果を会社が見て、ストレス状態の良くない人に不利益な対応をするのではないか」「リストラのための新たなツールとして悪用されないのか」という懸念を抱く人も多いのではないでしょうか?
改正法では「当該検査(ストレスチェック)を受けた労働者の同意を得ないで、当該労働者の結果を事業者に提供してはいけない」と明確に規定しています。実際のストレスチェックは医師や保健師などが行うことになりますが、彼らに守秘義務が課せられます。この点、会社と情報共有がなされることが前提である健康診断とは大きく異なります。
また、「ストレスが高い」という結果を得た労働者が、「いろいろと医者に相談してみたいが、会社を通じて依頼した結果、リストラ対象リストに掲載されないだろうか」といった不安になることもあるでしょう。
この点についても改正法では、「事業者は、労働者が当該申し出(医師面談)をしたことを理由として、当該労働者に対して不利益な取り扱いをしてはならない」と規定しています。
一方、従業員が高いストレス状態になるということは、職場環境に何らかの問題があるために生じていることも考えられます。そのため改正法では、企業は医師の意見も聞いたうえで業務内容の変更や勤務時間の低減など「適切な就業上な措置」を講じなければならないと定めました。繰り返しとなりますが、この場合でも個人の同意を得ないで医師が会社側に結果を提供することは禁じられています。
改正法は、働く人たちの高すぎるストレス状態を緩和し、健康で生き生きと働けるためのストレスチェック義務化制度とうたっていますが、そのためには個人情報の保護や不利益取り扱いについて会社側の十分な配慮、行政による監視が必要だといえます。また、会社に知られることなく医師やカウンセラーなどの専門家に相談したい人たちのために、外部のカウンセリング会社や医療機関に相談できるような体制整備も重要になります。
著者プロフィール:神谷学(かみや・まなぶ)
アドバンテッジリスクマネジメント 取締役 常務執行役員
東京大学法学部卒業、文部省(現文部科学省)入省。2001年にアドバンテッジリスクマネジメント入社。ストレスチェック義務化対応サービスに携わる。2014年4月より現職。
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